スレ企画[お題で妄想]その4

[お題で妄想] その4の1 「指定RでのK・O予告」「ふかふかグローブ」
「ダウンを奪って無邪気に喜ぶ格闘経験なしのロリっ子」「教育するつもりが教育されてましたぁ〜〜ンッ!!」


<火曜日―a.m.08:25 廊下>


男は、高貴なる妖精たちの楽園を彷徨っていた。
「聖ロリス女子大学付属小学校」、通称ロリ小・・・小中高、そして大学まで一貫教育の、超名門女子小学校だ。
昨日のあれから一睡もできていない。充血しながらも虚ろな眼のまま、長い、ただひたすらに長い廊下を歩む男。


ごきげんよう、先生」「ああ・・・」
生徒の誰一人として、立ち止まり微笑んでの挨拶を欠かさない。歩く一挙手一投足に、気高い淑女の気品が漲っている。
――妖精・・・いや、これこそ淑女と言うのだな・・・将来、この国を支える逸材なのだろう・・・あの悪魔とは違って・・・
・・・「五の桜」・・・「五の蘭」・・・廊下の末端に近づくにつれて、足が、鉛の如く重くなる・・・「五の椿」を過ぎ・・・
女子トイレを挟んだその先が・・・「五の藤」。楽園は、ここまでだった。この扉の先は・・・地の獄だ。
冷たい取手に指を掛けたその瞬間・・・赴任当日、精神の奥深く刻まれた屈辱の記憶が、男の脳裏へフラッシュバックした。



<月曜日―a.m.08:20 五の藤>


「はっ、はっ・・・せーんせ、ごきげんよーっですぅ!」「・・・あ、ああ」
少女は、男を追い抜きざまにスカートの端を軽くつまみ上げ一礼すると、男の初舞台となる教室へ駆けていった。
その美は男に、返す会釈すらも忘れさせた・・・まるで、精緻なフランス人形・・・そのボリュームあるスカートは
白とエメラルドグリーンを基調とし、目が覚める程に華やかながらも、奥ゆかしい抑制の効いた清純美を醸し出している。
複雑にロールし絡み合いながら自らの膝まで伸びている、そのダークブラウンの髪がゆさゆさと揺れるたびに
ふうわりと思春期独特の少女のからだが発する匂いに混じって、微かなベルガモットの芳香が鼻腔をくすぐった。


――さながら、妖精達の女王だな・・・あの髪・・・何人がかりでセットさせるのだろう・・・ああ・・・いい、匂いだ・・・
小五女児の発する、五感を貫く圧倒的な官能美は、男に教師としての自覚を忘れさせるに充分過ぎた。
――はっ・・・!落ち着け、俺・・・!これじゃまるで、ロリコンだ・・・!相手は、子供だぞ・・・!
男は聖職者として、備忘録に「人形少女 服装注意」と書き込みながら・・・ズボンの中身の収縮を待たねばならなかった。


「勧迎 ロリコン変たいせんせい」
「五の藤」で男を待っていたものは、あの妖精の女王と、黒板に書かれた挑発的な文言だった。
目隠しをして左手で書いたような酷く歪んだ字で、しかも「歓」の字が違っている、などと言う事は瑣末な問題だった。
男は予想外の屈辱に我を失い、「己の名を名乗るより先に」その白線を消そうとした。
しかし、黒板消しは「ロリコン」の文字の上を虚しく何度も擦り付けるだけだった。


「くく・・・白のごくぶとペンでかいたから、きえないのですよ〜だ。ロリコンたいせーんせっ」
7名のクラスは、最前列に1名、二列目に6名が横並びになっていた。声は、男のまさに真っ正面から聞こえてきた。
――他の生徒を全員足しても及ばぬ、この存在感!・・・廊下の少女だ!・・・ドレスの胸の名札は、「皇みどり」・・・?
わずか7名か、さすがエリート中のエリートが鎬を削るロリ小と、男は驚いていたはずだ・・・本来の精神状態であれば。


「こ、『こう』?みどりさん・・・・・・すっ、座りなさい・・・!」
「ぷぷ・・・ぷきゃーっはははっはっ!! ひらがなもよめなくて、よくもせんせーになれたものですぅ〜!!」
よくよく見れば「皇」の下半分、「王」の部分の四つの空間に・・・「す」「め」「ら」「ぎ☆」と、書いてある。


「わたしは、すっ!めっ!らっ!ぎっ!!・・・みどりですぅっ!!バーカ!はーくちっ!むがくもんもー!!」 
飛び跳ねるたび、目と鼻の先で微かに、だが確かに揺れる胸を凝視する内に・・・男はまたも、興奮に息を詰まらせた。
「せーんせ、わたしの匂い、そんなによかったのですかぁ?・・・ふふ、この教だん、けったおしちゃおっかなぁ〜・・・
そのくっせーくっせービンビンちゃんを、白日のもとにさらされたくなかったらぁ・・・そこにはいつくばるのですぅ!」



[お題で妄想] その4の2


<月曜日―a.m.09:30 五の藤>


――俺は、今朝出会ったばかりの美少女に、罵倒され、土下座させられ、頭を踏まれ・・・ああ!あんな、子供に・・・!
男は一時間目の屈辱を無自覚に反芻しつつ、黒板の高さ70%を覆う屈辱の文字列から逃げるように
上下15%ずつの狭い余地を使って、怒りに震える右手で数式を書き始めた。


「よっこらせっくすっ・・・っとぉ」
机に小さなお尻を乗せ、教壇に細い脚を投げ出し、椅子を枕に堂々と寝そべる少女。
両手首までを完全に覆うスリーブから、百合の花の如く白く繊細な手指が伸び、机の上の漫画本を拾い上げた。
目的は一つ。言うまでもない・・・挑発だ。


――くそっ!こいつは、何様のつもりなんだ・・・うッ・・・!ロングスカートから、かぼちゃぱんつが丸見えだ・・・
――緑・・・いや、白か?何か、書いてあるぞ・・・
男は、幼き神秘に吸い寄せられていく己を、精神力で自制しきれなかった。
その異様な有様は、大きく葉を開いた食虫植物が憐れなる獲物を誘い込み、まさに捕食せんとする瞬間を想起させた。


「はじを知れ 社会のゴミ」
秘部を覆う薄い布に書かれていた悪意の呪文・・・その魔力は、男を激しく跳ね返し硬い黒板へ後頭部を激突させた。
自らの歯ぎしりで、奥歯が欠けそうだった。男は漫画本を没収した。淡い緑の付箋が貼ってある・・・嫌な予感がした。
「さっさと死ね ぱんつぐるい」
白いページに「予め」赤字で書かれていた12文字に男は悲鳴を上げて仰け反り、屈辱の黒板に再び頭を打って座り込んだ。


「すーっ・・・すぅー・・・ぴぃぃー・・・」
そのまま少女は寝息をたて始めた。男は教壇から身を乗り出し、漫画本を握り締めた怒りの拳を・・・やり場なく下ろした。
――抑えろ、抑えろ俺・・・!こんな程度の侮蔑で・・・あの「抑止力」を使うなど・・・ロリ小教師の名が泣くぞ!!
スカートとその内部から漂う魔性の芳香に、男は煩悶の50分間を過ごした。教科書は、予定の半分も進まなかった。



<月曜日―p.m.01:35 職員室>


「世界で通用する淑女になろう」
この学園の校是は、新年度から変わった。校舎設備も大規模な増築がなされたらしい。
男は新生ロリ小最初の新任教師である事に、無上の誇りを感じていた。
国内の女子教育の頂点を極め続けていたロリ学園は、更に全世界へとその野望の版図を拡げつつあったのだ。


職員室前、全校に一つしかない男子トイレ。吐き気を堪えつつ、冷水を頭からかぶって頬を濡らしていた涙を洗い流すと
男は興奮を押し殺し、憎っくき皇みどりの服装、そして教師への態度について問いただした。
瀬波洲一郎・・・珍しい苗字の、温厚そうな白髪の男だ。男の面接官を務め採用した、いわば心の恩師でもある。
「いいんですよ。あの生徒は・・・ええ、あなたが、気にすることではない・・・」
初老の教師は、何故か目を伏せたまま、消え入るような声で答えた。
――やはりそうだ・・・この男も腐っている。世界が憧れるロリ小淑女を育てる教師が、この体たらくでいいのか!?


男は己のデスクに戻り、時間割表を確認する。五時間目は、体育。種目は・・・ボクシングだと!?
教師の威厳を見せ付ける時がやって来た。男はそう思った。栄えあるロリ小教師として・・・そして、一人の男として。



[お題で妄想] その4の3


<月曜日―p.m.02:05 体育館・格技室>


吹き抜けの多目的球技室、そして階段を上った先にある、厳重な転落防止柵に守られた畳張りの格技室・・・
広大ではあるが、女子教育の頂点にしては、不自然な程に平凡だ・・・何だか、ガキの頃を思い出すな・・・そう男は思った。


「いいか、今日の体育はボクシングだ。では、各自自由にペアを・・・?」
皇みどりには遠く及ばないが、いかにもお嬢様然とした少女6名が2人ずつの三角形に並び、真新しい畳に正座した。
指示も言い終わらぬ内に、男は閉じ込められてしまった事になる。宿敵と二人きりの空間に・・・
「お手本がないとぉ・・・みんなわっかんねーのですけどぉ〜・・・アッタマぁ、だいじょうぶなんですかぁ〜?」
腕を後ろに組んだまま、可愛らしく首を傾げた少女の唇が憎々しく蠢く。ここまでは、何もかもが男の思惑通りだった。


理不尽な恥辱の拷問の中、男はこの少女を圧倒できるモノを必死に探し、思い付いた・・・それは「体力」だ。
――くく、魔女め・・・口は達者だが運動はどうだ?このミットを動かしてやる。無様に空振りしべそをかくがいい・・・


「青瀧院さん」
「はいっ!みどり様!」
手首を一人だけ袖の長い体操着で隠した妖精が、うやうやしく女王の足許へ跪いた。
皇みどりはその緑と白のボーダーニーソックスを脱がせただけで、ドレス姿のまま男と対峙した。


――貴様・・・!その、持ってきた体操着は一体何なんだ・・・!舐めくさりやがって・・・!
だが、巨大な明るいグリーンのグローブは、少女が生きた人形だとすれば、その構成パーツであったかの如く
その秘められた魔性とは真逆の静謐美に、余りにも自然にフィットしていた。
初々しく揺れる少女拳闘士のファイティングポーズに・・・男の息が、何故か荒くなっていった。


その舌で男を苦しめた少女も、背丈のある男を前にすると、小さな口を真一文字に結び唾を飲んだように見えた。
――もしかして、俺にプレッシャーを感じているのか・・・?
徹底的に虐げられ続けた男のプライドが0.9%から1.0%にまで回復したその瞬間、屈辱の舞は始まった。


ぐぼぉんっ!!
緑の塊が視界の中心で急激に膨張し、一瞬の柔らかな窒息感と共に、男の宇宙を暗く塞ぎ尽くした。
格闘経験の無い少女は、ボクシングというものを全く知らなかったのだろうか
あろうことか、構えたミットとミットの隙間・・・鼻面を狙い打ってきたのだ。


ぼふんっ!ぼむんっ!ぼすんっ!
踵の蹴りを加え、背伸びするように真っ直ぐ打ち出すパンチは
少女が要領を掴むにつれそのバックスイングを増していった。男の視界内でより長い軌道を加速し炸裂する顔面パンチは
結果的に「殴られる」という、男の人生最初にして最大の恐怖を爆発的に増幅させる事になった。


片膝を突いてしまったのは、生意気な美少女に打ちのめされ「怯えている」という、教師以前に男としてあってはならぬ
狂った現実から逃れようともがいた精神の摩耗からだった。背伸びの必要が無くなった少女は、唇を淫靡に歪めると
男の鼻面へ一切の遠慮も無く、左右のパンチを真正面から水平に打ち込んでいった。
おぞましくも、奇妙な光景だった。グローブが鼻を押し潰すのではなく、鼻がグローブにめり込んでいくのだ。
鼻骨の形にくっきりと凹んでは膨らみつつ戻され、再び迫り来る美少女の双拳に、いつしか男は涙に咽び震えていた。


――汗と香水の入り混じった、ミルクティーの香り・・・長髪とドレスの奏でる衣擦れのメロディ・・・
――そして何故か、少しの痛みも齎さない、儚い少女の非力の拳・・・その恐怖に石化している俺・・・!


落ち着け、恐れるなと意識する程に、視界に拡がる無痛無力の弾丸は男の恐怖心のみを正確に狙い撃ち腫れ上がらせる。
――まるでこれじゃ、俺はこの子の、サンド、バッ、グ・・・!?
脳裏に浮かんでしまったその六文字に、男の中で何かが切れ、手足の筋肉は痺れ切り芯まで石化が浸透した。


「ぷっ、ぷきゃははははははっ!! 男だから・・・おとなだからという・・・そんなくうっだらっねー理由で
ケンカこんじょーもねーロリコンクソムシがわたしたちにモノを教えよーだなんて・・・とんだおわらい草なのですぅ!!」


――全く、その通りだ・・・
男は前のめりに倒れ伏し、降り注ぐ甘酸っぱい汗のミストと無邪気に勝ち誇る少女の罵声を浴びるに任せていた。
脳が揺らされたからでも、骨を砕かれたからでも、激痛に負けたからでもない。
迫るグローブの視覚的恐怖、鈍く残響する破裂音、痛みのない・・・永久に心をすり潰し続ける拷問に敗北し
小五女児に嗚咽を漏らしてしまった自己否定の無限螺旋から抜け出す為、最後の精神力を振り絞って自らを倒したのだ。



[お題で妄想] その4の4


<月曜日―p.m.02:10 体育館・格技室>


「せ〜んせっ、これがふかふかちゃんじゃなくってぇ・・・『こっち』ならぁ、ど〜なっていたのですかぁ?」
皇みどりの罵倒は終わらない。グローブを外し、淡い緑の布が堅く巻かれた小さな拳を見せ付ける。
「うぅっ、ぐふぅふうぅうっ・・・!ボッコボコにっ、されていましたっ・・・!みどりちゃんにっ・・・!」


「くくっ・・・れーてんですぅ。もっとぐたい的に。それから『みどりちゃん』じゃない。みのほどを・・・しりなさい」
少女は左足の指で器用にも男の鼻中隔をつまみ上げ、額に唾を三連発で吐き掛けると、続けた。
「はがっ、はっ・・・!鼻がっ、へし折られっ・・・!鼻血で呼吸困難に陥りっ・・・!歯は一本残らず砕き尽くされっ・・・!
土偶のように腫れ上がった眼でみどり様の麗しいお姿を見上げながらっ・・・!悶え狂っていのち、ご・・・?」
泣き顔を隠すように伏せながら絶叫を絞り出すうちに、皇みどりとそのクラスメイトは階下へと降りていた。


くすっ・・・
「そうぞう力だけは、合格ね」
左肩からグローブの紐を下げた美少女は、勝利者の愉悦に満ちた微笑を湛えながら去っていった。


「ぬうぐおおおおおっ!!!!」
男は畳に拳を叩き付け、浮き上がった足下の畳に跳ね飛ばされ、また泣いた。



<月曜日―p.m.11:00 職員室>


男は全ての放課後業務を放り出し、泣き喚く内に公園で眠ってしまった。
泣き腫らした顔を他の教師に見られる事が、恐かったのだ。
そしてタイムカードの押し忘れを思い出し、今になって戻ったのである。幸いにも鍵は開いていた。


――まだ誰か、教員が残っているんだな・・・
奥の部屋の「誰か」に見つからぬよう帰ろうとしたその時、火災警報ベルがけたたましく鳴り響き、すぐに止まった。


――なんだ、誤報か・・・
出入口横の火報盤は、手動で復帰させる必要があった。点滅しているのは・・・「地下格技室」?
何故か火報盤の真下に「偶然」落ちていたその未知の施設の資料に・・・男は狂気の笑みを浮かべつつ、職員室を後にした。



<火曜日―a.m.08:35 五の藤>


四半世紀以上の昔・・・徹底的な廃絶が行われた抑止力があった。児童の凶悪犯罪多発を受け
長年の議論の末にその力は再び合法化されたが、校則にそれを明記する学校は殆ど無かった。
ごく一部の名門校を除いては・・・


取手から思わず指を離し駆け込んだ女子トイレで、男は襲い掛かる胃痙攣に流し込んだばかりの朝食を戻しつつ
始業のチャイムを聞きながら、教育崩壊を防ぐ最後の手段・・・「暴力」の必要性を感じていた。


黒板の文字列が、二字だけ増えていた。
「勧迎 ロリコン変たいマゾせんせい」


「変たい」の「い」と、「せんせい」の最初の「せ」に跨るように、新品のチョークの「側面」を使って
黒板の高さ一杯に縦書きされた、その太い赤字の二文字に・・・男の激情は、ついに弾けた。


「す、め、ら・・・ぎィーーーッ!!!」
少女は砕けた赤いチョークの破片を、卑猥な表紙の雑誌で防いだ。
「くすくす・・・やかましいったらありゃあしない・・・そんなに大声を出さないでほしいのですぅ。ちこくマゾやろう」


淡い緑の付箋・・・男は胸騒ぎと共に雑誌をひったくると、三たび黒板に後頭部を痛打する事になった。
――何だこれは!?この悪魔、皇みどりが・・・リングの上で読者へ、俺へ右ストレートを打ち込んでいる・・・!
男は知らなかった。「コラージュ」と呼ばれる映像技法を。
飛び散る汗の飛沫まで精巧に造られたその一枚を、男は紙面中央に鼻を押し付けるように凝視し続けていた。


男は、数十発という被弾の衝撃を完全に吸収し心のみをズタズタに引き裂いた、魔性のグローブに視線を集中させた。
紙面の少女の左手首に目をやると、ロゴには、"J.A.D.E. the Absolute"とある。
「んふふ・・・いつまでおっきっきーさせながら見てるのですかぁ?サボりマゾやろう」
少女は男から雑誌を取り上げ・・・
「ぐぼぉんっ!!」
パンチ音の口真似と共に男の顔面へ突き付けた。男は四たび叩き付けられ、落ちた黒板消しの白煙にまみれた。


「んふふ・・・いきたいとこがあるんじゃないのですかぁ?ちこくサボりマゾやろう」
――こいつ・・・知っている!!


――この時間は「道徳」・・・あの悪魔に、これから拳で「道徳」を叩き込んでやる・・・
――聖職者として、男としてあってはならぬ、この美少女へ芽生えてしまった感情・・・恐怖、そして背徳の憧れ・・・
――今こそ、最後の手段「体罰」の禁を解く時だ。俺は暴の力をもって、この渦巻く感情に決着を付ける!



[お題で妄想] その4の5


<火曜日―a.m.08:45 体育館・地下格技室>


格技室の真下の空間は体育倉庫になっている。
男が搬入口だと思い込んでいたシャッターの先には、地下のリングへと繋がる階段が伸びていた。
――ボクシング授業は昨日始まったばかりのはず・・・何故この少女は、こんな場所を知っている・・・?


「よぉ〜〜っく、調べるがいいのですぅ。いまのうちにこーさんすれば、許してあげますぅ・・・おしっこ一気飲みだけで」
清潔な淡緑色のリングに駆け上っていた男は、可憐な妖精の下劣極まる言霊に思わず仰け反り、五たび後頭部を打った。
――畜生・・・!あれ、痛くない?コーナーマットって、こんなに柔らかい物だったのか・・・
ロープの縦の間隔が狭い、恐らく児童用のリングに文句は無かった。他は・・・?
マットを踏み付ける。鉄板でも仕込んであるのかと思えば・・・畳より僅かに硬い程度の、適度な弾力だ。


皇みどりは長袖体操服の少女にリングシューズを履かせつつ、張り詰めたグローブを押し合わせ、淫靡に歪ませていた。
――"absolute"だったか・・・凄いグローブなのは昨日でよくわかったが、くく・・・大人の俺が手にしたらどうだ?
――大怪我をさせず、この生意気で・・・悔しいが整ったツラを、思いっ切りぶん殴れる・・・!


男には知る由もなかったが、スポーツ用品メーカー"J.A.D.E."は、とある世界有数の宇宙開発企業の子会社だった。
今年の3月に実用化されたばかりの"the Absolute"は、24オンスのサイズながらも実際の重量は6オンスにも満たない。
しかも衝撃に反応し、ナックル部分へ内部の超々低反発流動性素材が集中する、まさに絶対的な安全性を誇っていた。
唯一の難点は、コストだ。誰もが提示された数字の桁にまず驚き、そしてその単位がドルである事に更に仰天する。
現在はロリ小だけとは言え、このグローブの存在により今年から名目上、小学校教育にボクシングが認められたのだ。


俺にもそのグローブを、そう言いかけたまさにその時・・・美少女から投げ付けられた鉄球に、男は悲鳴を上げた。
男は"24oz"と書かれたその黒い球体を叩き合わせ、耳を劈く衝撃音に、六たびコーナーへ後頭部をめり込ませた。
――ふ、普通の、グローブ・・・オンス数が多い程、とは言うが・・・この小悪魔にとって、この重さは、凶器・・・!


「んぷぷっ・・・とっくにはいしゃけってーのカスには・・・そいつで十分なのですぅ・・・!」
「はらわたが煮え繰り返る」という言葉の意味を、男は暴れ狂う呼吸で実感していた。
この期に及んで少女は、自らを体格で圧倒する男へ、グローブによる絶対的な「ハンデ」を与えたのだ。
少女は愉悦に満ち満ちた嘲笑を堪え切れないのか、その巨大な右拳で口許を隠し、憐れみの眉を男へと向けた。


視線に迸った少女の濃厚な悪意は、男がこれまで必死に繋ぎ止めてきた、聖職者としての最後の自制心を焼き払った。
――ああ・・・わかったよ。皇みどり・・・教育現場に、事故はつきものだからな・・・


エプロンサイドまで上がった少女が目配せすると、何故か幽鬼の如く憔悴しきった、白髪の男が現れた。
「せばすちゃん・・・どんなことでもわたしの命れいにしたがう、あやつりにんぎょうよ。ね、せばすちゃん?」
「はっ、お嬢様・・・」
老人は左手にゴング、右手に木槌を持っていた。


「せっ、瀬波洲先生!?・・・この、クソ女が・・・!!」
「わぁ〜こわいですぅ〜・・・おーこったっ♪あそぉれ、おーこったっ♪ だいじょーぶですよぉ?だってぇ・・・
リングに入れるのはぁ、はいつくばったせんせーをカウントさせる時だけですからぁ・・・ね、せばすちゃん?」
「仰せのままに・・・」
ラウンド2分、インターバル1分・・・瀬波洲からなされた長々しいルールの説明は、全くの無意味だった。
男と少女という当事者同士の耳に、全く入っていなかったのだから。その理由は、両極端だったが・・・
「ふわ〜ぁ・・・ったく・・・おいぼれのしょんべんと話は長すぎてたいっくつでしかたねーのですぅ・・・
せっかくのじゅぎょーなのですからぁ・・・ルールはせんせーに、からだで教えこんでもらわないと・・・ねぇ?」


「教育を侮辱した罪は重い・・・1ラウンドで血の海に沈めてやる」
少女は残忍な憐れみの眉を崩しもせず、その淫らに歪みきった唇を隠していた右拳を、垂直に突き上げた。
「なら、わたしは7ラウンド・・・『7ラウンドめ』で、せんせーをころしてあげる」
そして高らかに自らのKO宣言を済ませると、対角線目掛けて右拳を引き絞り・・・
「ぐぼぉんっ!!」
パンチ音の口真似と共に開放した。男は我知らず、またも後頭部をコーナーへ・・・これが、七度目だった。



[お題で妄想] その4の6


<火曜日―a.m.08:55 体育館・地下格技室>


「わたしの着地からぴったし60びょーが、ゴングですぅ。せばすちゃん・・・にびょーずれたら、ここでぼくさつよ」


少女はトップロープに両拳を乗せ反動をつけると、大輪の花の開くが如くスカートを翻し、優雅にリングインした。
トンッ・・・
男は、昨日とは違う秘部を覆う深緑の布地に、込み上げる感情を抑え込むように少女を睨み付けた。
――相変わらず、恐ろしい程に見事なドレスだ・・・馬鹿め、自らの血で汚される事を全く考えていないのだろう・・・
――それに、ロープより高く飛んだようには到底見えなかったが・・・まあいい。こいつはリングに沈むのだから・・・


「あっ、そーですぅ・・・せばすちゃんに持たせてあるのでしたぁ」
老人は、今にも泣き崩れそうなその顔を隠すようにそれを掲げ、木槌へと持ち替えた。
「すぐに楽になれる、くくっ・・・まほうのカプセル。ただし・・・一回だけ。よ〜〜っく、かんがえるのですよぉ?」
真っ白な顆粒の詰まった緑と透明の、4粒・・・男はその意味する所を、一瞬で把握した。
――屈辱にまみれ、自ら死を願い・・・!涙を流しながらそれを飲むのは・・・きっさ、ま・・・!?


カーン!
少女はゴングの前に駆け出していたのか、いきなり男の右足が踏まれた。遠心力を活かしたスイングブローが左耳へ迫る。
ぼっふぅんっ・・・!
痛みは無く、あの忌まわしい打撃音だけが、耳道内へ直接ねじ込まれた。思わず両手でトップロープへ掴まれば
左のグローブが真正面から視界を覆い、男は暗い翡翠色の窒息感と共に、背中をコーナーへ磔にされていた。


ぼぐんっ!ぼぐぅんっ!ぼっぐぅんっ!
男の顎を無数に襲うそれはアッパーカットと言うよりも、真上へのストレートに近かった。
骨伝導により、一撃ごとに破裂音の残響が頭蓋内で複雑に絡み合い、あってはならぬ感情が再び芽生えつつあった。
甘い吐息の香すら感じられる程に接近した少女。その身体の余りの儚さに抵抗は虚しく空を切り、両腕は少女の長髪へ・・・


――ロリコン変たいせんせい
蘇る屈辱の文字列に、男の両腕は静電気に弾かれるかの如く宙を彷徨い、そして両足に痛みが走った。


少女は、男の両足の甲へ飛び乗っていた。ボクシングを全く知らないからこそできる、魔性の攻め手だった。
ぼぐっ!ぼすぅ!ばむっ!ばふぅっ!
顎を支点に垂直に弄ばれていた男の顔面とプライドが、今度は両の頬を標的として左右から水平に苛まれる。


――反則だ・・・!はん、そ、く・・・!?
男は少女の言葉を、そして己の立場をやっと思い出した。
――ルールを教える教師は、俺・・・!この悪魔は、何も知らないのだ・・・!
魂の奥底へ、深く深く植え付けられた恐怖の根は、そう簡単には消えなかった。強烈な胃痙攣が男へ襲い掛かる。


更に少女はボトムロープへと足を掛ける。薄いドレス越しに胸が密着し、ついに劣情混じりの恐怖が男を支配し始めた。
ばむぅっ!ぼすぅんっ!ばむぅぼすぅんっ!ぼむぅばすぅんっ!
身長差も、教師と生徒の立場の差も、もはや無意味だった。巨大な拳が左から右から迫り
グローブは無情にも男の鼻梁で「圧し潰れ」、視界を左右交互に塞いだ。
ダメージとすら言えぬ鼻骨への刺激が起爆剤だった。男の宇宙は、ついに暗翠色の豪炎に閉ざされてしまった。


カーン!
少女は拳を下ろし身体を開くと、明るいグリーンの艶やかなグローブを濡らす液体・・・男の涙に真っ赤な舌を這わせた。
男は限界点を超えた屈辱と敗北感に、顔面からリングへと突き刺さった。何故か、心地よい程の安らかな感触があった。


――なぜ、この少女は俺の心をこんなにも傷つけるのだろう・・・
――思えば俺の人生、他人を殴った事すら、なかった・・・俺はいったい、何をしているのだろうか・・・
60秒間のインターバル全てを費やし男は自分自身の弱さを責め、緩慢に身体を起こした。


カーン!
第2ラウンドが始まっても、男は後ずさりコーナーに背中を預ける事すら出来ず、その場に立ち尽くしていた。
トッ・・・トッ・・・
一切の構えも取らず、無言で歩み寄ってくる少女。その左脚が持ち上がり、右拳が引き絞られた。
轟く恐怖の電光が男の両足を縫い付け、決して持ち上がらぬ黒いグローブは、さながら死刑囚の手枷球を想起させた。
そして、極限にまで追い詰められた男の本能は・・・かつて踏み付けられた、自らの「両足」をガードさせていた。


ぐぼぉんっ!!
ふたりの時間が、止まった。男は己の鼻骨と魂を翡翠色のボクシンググローブへ深くめり込ませたまま、石化していた。
実に数十秒に亘る柔らかな窒息を経て、男は腰をリングに落とし・・・大の字に脱力した。



[お題で妄想] その4の7


<火曜日―a.m.09:00 体育館・地下格技室>


屈辱が増せば増す程に、僅か10歳の少女の拳に怯え切り震えている自己への無力感と憎悪が絶望の嗚咽を呼び
嗚咽の涙を隠そうとすればする程に、その無様な姿を嗤う妖精の儚い美が男の精神に亀裂を入れつつあった。


――KO予告を・・・外せば・・・!
男は、憐憫の嘲笑を己に投げ掛ける悪魔へ一矢を報いる突破口に歓喜した直後、凍り付いた。
それは男が少女に完全なる敗北を認め、「ロリコン変態マゾ野郎」として屈服する事を意味していたからだ。
――くそッ、死んだほうが・・・!
脳裡に浮かんだ「死」の一文字と少女の拳の映像がリンクした直後、男は発作的痙攣と共に過呼吸に陥り
その下半身は周りから見ても居た堪れない程に怒張し・・・湯気すら立てていた。


イカくさくてイカくさくて・・・ぷくくっ、おはなが曲っがりそーなのですぅ。ロリコン変たいマゾやろう」
破滅か、破滅の先延ばしか・・・男はカウント9で、後者を選ばざるを得なかった。


第3ラウンド、男はロープ際で撃ち上げられる度、放り出されそうになっていた。その威力からではない。
パンチへの、恐怖心からだ。心の器が破裂する程に注ぎ込まれた恥辱に、男の精神は最後の防衛機制を働かせ始めていた。
――もういやだ・・・おちて・・・らくになりたい・・・
その時コーナー自体が伸び、スライドしたロープが男を抱き止めた。偏執的なまでの、安全への追求・・・コーナーマットへ
グローブと同じ素材を惜しみなく投入し、頭部が接近すれば表面を軟化させる、このリングは・・・言わば生きた檻だった。
糸の切れた操り人形の如く、男は茫然と跪いた。皮肉にもその安全性が、男を更なる絶望の深淵へ導いたのだ。


教育するつもりが教育されてましたぁ〜〜ンッ!!・・・そう、それには書かれていた。
老人と観客席の少女3名が、滂沱の涙と吐瀉物を隠すように、極太歌舞伎文字の横断幕を掲げる。
「きょう、ひあっ、いっ、ぶふうっ、する、ぷはあっ、つもっ、くあぶっ・・・!」
「っぷきゃっははははっ!!・・・っなにいってんのかぜんっぜんっ、りかいふのうなのですぅ〜!はい、ふくしょ〜!」
「きょ、あぐっ、うっ、いぶほっ、ぐうっ、しひッ・・・!!」
告別式さながらの慟哭に横断幕が震え歪む毎に、皇みどりの哄笑は高らかに響き渡るばかりだった。


「苦しそーでちゅねぇ〜・・・楽になりたいのでちゅかぁ〜?」
インターバル、既に幼児退行を起こしていた男は、自らの涙と鼻水と涎と小便の混じった池に突っ伏していた。
毒蜘蛛のように這い寄り、その表情を心底楽しそうに覗き込む少女。
「せばすちゃん」
少女が促すと、男の目の前に「それ」は差し出された。
永遠にも思われた十数秒の逡巡の後・・・男は、そのカプセルを口に含んでいた。
――ああ、これでおれは、しぬ・・・が、けーおーされたのでは、なくなる・・・おれは、かったんだ・・・


「どう?おいちー?ブドウ糖・・・くぷふふっ・・・つかれたアタマにぃ、あっとゆーまに効くんでちゅよぉ〜」
男の心臓が止まり、第4ラウンドを告げるゴングが、無情にもその鼓動を復活させた。


「くく・・・何がそんなにかなちーのでちゅかぁ〜?せんせーがおうたをうたってあげましょうねぇ〜」
「らーんららんらっ♪らーんららんっ♪らららんらんらんらんらんっ♪・・・」
ばむっ!ぼふうっ! ぼむぅぶじゅうっ! ばぐめしゃぼふぐじゅぐぼぉんっ!!
澄み切った妖精の歌声、粉砕された魂を焼き焦がす打撃音・・・それらが無限に響き渡る不協和音と化して
本能すら限界点と認識していた通過点を更に越えて、永久不可逆の臨界点へと恐怖を亢進させる。


全ての衝撃を喰らい尽くす絶対安全のグローブは、翠色の悪意に染められ、あらゆる魂を喰らい尽くす凶器と変貌した。
少女のボクシングが加撃面へ齎したダメージは、瞼と鼻腔内の軽い充血と、皮膚の僅かな腫れ・・・それだけだった。
一滴の出血も、ダウンを招く程の脳震盪も、無かった。
それは即ち、今後の試合の終了権は少女ではなく、男自身に委ねられたという冷厳な事実を示していた。
それも、敗北という選択肢しか、もはや残されてはいない。
男がこの無血の惨劇から脱出する手段は、魂の延命装置を自らの手で外す他・・・なかった。


結果として男は7ラウンド2分55秒、少女の予告通りにノックアウトされた。ダウンは、計2回。
だが、テンカウントは耳に入っていなかった。
既に第4ラウンドの途中で、生きながらも違う世界へと旅立ち始めてしまっていたからだ。
こうして一時間目「道徳」の授業は、終わった。



[お題で妄想] その4の8


<水曜日―p.m.09:00 某ホテル・展望レストラン>


七色のイブニングドレスを纏った妖精達が、地上420メートルの円卓を囲んでいた。
シャンパングラスが軽く弾ける。中身は搾りたての真っ赤なオレンジジュースだ。


「私の教育者教育案を世に出す為には、実験が必要でした。貴女達の協力に本当に感謝しています。
さあ遠慮せず召し上がって。私達子供は、大きくなる事が第一の仕事です」


皇みどり10歳は、小学生ではなかった。中学生でも、高校生でもない。このロリ大の卒業生だ。
そして8歳でフランスへ留学、大学院に該当する課程を卒業し半年前に帰国したばかり・・・専門は、教育学だった。
少女には教員免許こそ年齢の不足により認められなかったが
己を育んだ母校の更なる発展に尽くす為、その教師となる人間の資質を試すべく特別教員に就任したのだ。


ロリ小に四つめのクラスなど、無かった。
皇みどりの教育実験の為だけに増設された「五の藤」は、新任教師の心の弱さを試し、矯正する檻・・・
特に、「体罰」などという安易な解決に走る種類の人間を見抜き、裁く場だった。


「こっ、こちらこそっ・・・!地下では取り乱してしまい申し訳ありませんでしたっ・・・!
教育学の権威たる大好きなみどり様の実験に参加できただなんてっ・・・夢のようですっ・・・!」
青瀧院と呼ばれた少女は、声を詰まらせた。拭いた手首の古傷が擦れ、己の涙が染みた。


皇みどり以外の「五の藤」6名も、全員10歳だが、小学生ではなかった。
サミット7と呼ばれる天才少女達・・・彼女達の多くが、天から与えられた異常な才能と
家柄が齎す期待の重圧に苦悩し・・・自ら命を散らそうとした者さえいた。
その頂点である皇みどりは、彼女達の涙と同じ目線で向き合い、このロリ大教育学部へ実習生として迎え入れたのだ。


勝利者の資質を持つ者の資質を育てる者もまた、勝利者の資質を持つ者でなければならない・・・当然の事です。
あの被験者は、聖職者と私たちに必要な・・・礼節も洞察力も精神力も、それらを教える覚悟も欠いていました。
そのような場合にも、被験者に己の心の弱さを見つめ直し反省する機会を与える為、予め舞台の準備をしておいたのです。
最も屈辱的な挫折を乗り越えてこそ、人は再起できるのですから・・・それでも不適格ならば、彼の実りある人生の為に
適度な再教育を施せるようにと、適度な猶予時間も設定したつもりだったのですが・・・
彼は、恐らく一生『こちら側』に戻れないでしょう。少し可哀想な事をしましたね」


重苦しい沈黙を破るように、一人の少女が声を上げた。
「まさか先生、あの、グローブも・・・!?」
「さすが察しがいいわね、紫雲寺さん・・・ふふ・・・グローブだけだと思う?」
「「「「「「え・・・!?」」」」」」
少女達の顔が一斉に青ざめ、畏敬の念に満ちた嘆息が全員の口から同時に漏れ出した。


「教育こそが人間を作り、そして教育者を作るのですね・・・!あの男の犠牲は残念でしたが
教育者の卵として言わせて頂ければ、みどり様の実験方針は全く間違っていませんでした・・・!」
「ふふ、青瀧院さん・・・綺麗な夜景ね。貴女達ロリ淑女にこれから課せられる使命は、貴女の予想以上に・・・巨きいわ」
「ええ・・・!これからはこの小さな明かりを灯す人々、一人一人の為に・・・そして、世界へ」
涙に濡れた顎を優しく持ち上げ、眼下へ向いていたその視線を、輝く星空へ向けさせる少女。
「・・・世界より、もっと広い世界があるわ」


「貴女たちの今後の活躍に期待しています。また次の実験も・・・宜しくね」



<水曜日―p.m.11:00 皇家・執事室>


「瀬波洲・・・そろそろ休みが欲しいとは思わない?」
ばむぅっ、ぼすぅっ・・・
「次のモルモットが来るまで、退屈で退屈で死にそうよ・・・一体誰のせいかしらね」
ばむぅんっ、ぼすぅんっ・・・!
「あのゴミクズとの二日間、何も得るモノが無かった訳じゃないわ・・・ボクシングって退屈しのぎには使えそうだって事。
身体を思いっ切り動かすのって、気持ちいいし・・・ねえ、あの地下室の鍵・・・まだ持ってたわよね」


皇みどりの狂気を最後まで見届けた唯一の人物は、打ち鳴らされる巨大な拳の前に、言葉を失っていた。
勝利者の資質を持つ者の資質を育てる者を選ぶ者も、また勝利者の資質を持つ者でなければならなかったのだ。
――お嬢様が、私を選んだ・・・責任を、取られるだろう・・・それも、速やかに・・・!
「車を出しなさい・・・今すぐよ。行き先は・・・わかっているようね」


皇みどりの一週間に耐える者でなければ、天地の支配者たり得る淑女を育てる事など、決して許されないのだ。