スレ企画[お題で妄想]その2

[お題で妄想] その2 「見下す少女」「命乞い」「とどめ」


すぐ前の席には、先週まで一森が座っていた。一森一、あだ名は「線対称」。二重アゴだった一森は、今は花瓶だ。
ますます気が滅入る。今日ほど、退屈な授業が更に長く感じられる日はなかった・・・


「これが私の番号だよ。うん、オッケー♪じゃ、私・・・ちょっと準備があるから・・・着いたら電源入れて待っててね」
星咲さんはお付きの人の車に颯爽と乗り込んだ。男子達の、殺意すら孕んだ嫉妬の視線。僕は逃げるように車を追った。
星咲さんは、今や世界のHOSHIZAKIだ。日本人の、しかも現役の高校生が、堂々と世界の舞台で80億人類を魅了するなど
十年前なら考えられもしなかった事だ。まさに聳え立つ星咲さんの高貴で凛々しい存在感は、他を圧倒している。
彼女の美を評論する事すらおこがましい。そして彼女は心理的にも、膝を曲げて僕たちと同じ目線で接してくれる。
ああ、僕らの偉大な女神、星咲さん・・・胸が苦しいよ。まさか、こんな僕が、あの星咲さんと、デートなんて・・・
80億分の1の幸運に、僕は身震いする心持ちだった。


"Try to Star 99"・・・待ち合わせのビルに着いた。その名の通り、星に挑むかの如く聳え立つ、99階建ての摩天楼だ。
地下3階から15階までが大ショッピングモール、大企業のオフィスと最高級ホテルを挟んで、95階が大展望台・・・
すっかり僕ら小市民の生活に溶け込んでいるこのビル・・・96階から上は何があるんだろうか・・・?
prr・・・♪ 一時間も前から、端末を握り締め耳に当てながらその時を待っていた僕は、最初のコールで反応した。
「そこじゃないわ。入り口から出て・・・壁に右手を付けて歩くの。関係者以外立入禁止の壁があるから・・・」
僕は憧れの人に促されるまま、黄色と黒の縞模様に塗られた厚い壁を4回、間を空けて9回ノックし、自分の名を告げた。


壁がスライドし、屈強なSP風の黒人6人が、45度の無言の礼で僕を招き入れた。
表の喧騒が嘘のように、人っ子一人、いない・・・言い知れぬ不安に駆られたその時、すぐに僕の端末が鳴り出した。
「角が見えるわね。そこを曲がったら、大股で歩いて・・・そう、そこでいいわ。そして・・・」
言われるがまま荷物を置き、夕陽を反射し輝く壁に頭から思い切り体当たりした所で、衝撃と共に僕の意識はとんだ。


「もう、立てるか、なァ〜〜?お客様ァ〜〜・・・ふふ・・・どこに参りますかァ〜〜?」
立ち上がった僕を、ちょうど頭一つ見下す星咲さんの両手には、指先が露出した・・・奇妙な包帯が巻かれていた。
眩しい純白のセーラー服・・・赤と黒のチェックスカートから伸びる脚・・・そして、包帯・・・包帯・・・?
「あっあー♪こちら星咲ィー♪えーっと、何人目かな・・・忘れちったーい♪って独り言かーい!」
謎の言葉を宙空に話しかけ、壁を見つめ、細く白い指先を這わせると・・・銀色の板がスライドし、制御盤が出て来る。
三段式の生体認証だ・・・ここは星咲さん専用の、エレベーターなんだ。しかも、もう動き出しているぞ・・・!


ボタンの配置は・・・
[B6]   [1] [97] [R]   [R] (>>1注※この行は、皆さんの首を右に90度傾げて読んで下さい)
それだけ・・・!? [95]とかは、無いのか・・・!?
それに、この真っ赤なボタン、[B6]って・・・このビルは、地下3階までだったはず・・・


「説明するわ。97階が私の部屋、96階と98階は防音壁。説明おしまい」


「ふふ・・・説明は終わりと言ったでしょう?何か、ご不満でも? ねえ、ねえ・・・『あなたも』そんなに気になるの?
みんなそうなのよね。しにたがり・・・あら、間違っちゃった。くふふ、ふふ・・・知りたがりなんだから・・・
それじゃあ、特別出血大サービス。今日だけよ・・・[B6]ってのはねえ・・・くっ、くっ・・・これよ・・・!」


その拳が大きな[B6]ボタンを叩き割ると、出入口を除いた室内壁3面に白いマットが張り巡らされ
コンソールの更に下が開き・・・真っ赤な、一対の凶器が現れた。
"B"と"6"の意味がリンクし、僕の本能に刻まれた原初の恐怖を呼び覚ました。



[お題で妄想] その2 つづき


端末を・・・!咄嗟にズボンに左手を延ばした瞬間、少女の右拳がしなり、紅い弾丸は鼻骨を斜めに貫通した。
白いマットに背を叩き付けられ、跳ね返る所を今度は左右の拳が交互に鼻面を叩き潰す。1発、2発、3発・・・7発!
「いっ、痛・・・!ぶっ、ぐおっ、あぶっ、ふうっ、くはっ、ぶうッ、ぎゃあおッ・・・!あがッ、ひぃひいッ・・・!!」
「あ、これも忘れてたわ。やっぱ、カメラが回ってないとね〜」
少女は二つのうち上の、やはり拳で押せるサイズの[R]を叩く。鮮血滴る密室、その四隅から
12台のロボットカメラと4本のマイクが触手の如く這い出し、血にまみれた少年の醜態を記録していく。


「今のはリハーサル。じゃ、ちょ〜っとチクッとしますよぉ♪ ・・・さっさと立ちなさい。死にたいの?」
少年は、少女が異常者を演じている事を悟りつつも、却ってその切り替えの不自然さに、怯えきっていた。
柔軟な膝のバネを活かしたパンチが頬を激しく叩き、突き上げる衝撃が曲がっていた膝を次第に次第に伸ばしていく。
膝が伸び切り踵が浮けば、6オンスの硬い左ジャブの嵐が、複雑に砕けた鼻をマットと挟み撃ちにする。
12台のカメラのワイパーが作動し始めた。天井からも鮮血が雨と落ち、閉ざされた空間の六面が朱に塗り潰され始めた。
「『殺さないでェ』『なんで僕がァ』・・・はぁ〜、センスのない命乞いね。マネして損しちゃった。失格よ」
圧倒的な暴の力の前に「なぜ」は意味を成さなかった。なぜなら、少女の行為に意味など、とくにはなかったからだ。


左拳で喉を掴み上げ、右拳を振りかぶりつつ、少年の必死の命乞いを見下し楽しむ少女。眼は血走り、涎が垂れている。
無情の右アッパーカットが振り抜かれる。天井からけたたましい激突音が二度響き、エレベーターの到着時間表記が
"0:15”から"ERROR"へと変わった。まず少女の右拳が天井を撃ち、続いて少年の顔面が、鋼板へと激突したのだ。
「あーあ・・・ポンッッ、コツなんだからあ・・・弁償ね。ほーらぁ、もっと面白い命乞いでさ」
「こ・・・ころ・・・さ・・・」


「ぐ・・・く・・・くっ・・・くっ」
怒っているのか、笑っているのかさえ、少年にはわからなかった。だが、もう取り返しの付かぬ事だけはわかった。
少女は、出入り口の鋼板へ少年を押し付けると、失神と失禁を繰り返す少年の顔面へ、獣の狂気を開放した。
打ち下ろす右ストレートにより飛んだ歯の破片で、カメラレンズの1台がヒビ割れた。
鋼の扉と両拳で少年を挟み付け、凶行を続ける少女。鼻骨、眼底、顎・・・あらゆる骨が砕け密室に血肉が充満した。
呪われた籠は、地上444mの頂点で止まった。扉から嘔吐するかの如く、赤黒い瘴気と共に変形した少年が射出された。


「じゃあ、『とどめ』ね。あんなつまらないつまらないつまらない命乞いを二度も繰り返したのは、貴方が初めてよ」
グローブを脱ぎ捨てた少女は、少年の両瞼に指を掛けると、屋上の中央へ引き摺る。畳一枚ほどの鋼板が敷かれている。
リモコンの"12"をプッシュすると、蒸気と共に床が持ち上がり、それは姿を現した。
「・・・!!!」
「あら、いけないわ。またまた、間違っちゃった・・・あの二重アゴ・・・一森クンっていったかしら?」


少年の死にゆく視界でそれが一森と判別できたのは、顎が辛うじて原型を留めていたからである。そこから上は・・・
「99階は冷凍庫なのよ。どんな肉でも瞬間冷凍・・・彼らは私のコレクションとして永久の死を生き続けるの」
少女は"13"を押す。一森だった物体が再び氷の地獄に沈み、魂へ響く機械音の後、暗い穴から空の棺が現れた。
「鋼板は星咲重工謹製の、特殊ステンレス鋼50cm厚・・・死に心地はバツグンよ♪」
少年は瞬く間に両手両足を鋼の棺に囚えられた。更にカメラ4台とマイク2本が棺から伸び出してくる。
「さあ、一世一代、最期のチャンスよ・・・とびっきりにピュアな命乞いを聞かせて頂戴」


「・・・・・・す・・・き・・・で・・・す・・・・・・」
布の巻かれた少女の右拳は、少年の眉間で止められていた。
「ふ・・・負けたわ。私の負けよ。貴方を許してあげる」
氷の眼が少年の潰れに潰れ切ったその顔面に、一瞬の安堵の表情を認めたその直後・・・少年は氷と化していた。


無慈悲の拳が白煙煙る鋼板へ激突し、燃える夕焼けに、無数の砕片と化した頭蓋骨がキラキラと光った。
「馬鹿ね・・・『殺さないで』と素直に命乞いしておけば・・・・・・飼ってあげようと思っていたのに」