スレ企画[お題で妄想]その8

[お題で妄想] その8の1 「12〜13歳の美少女」「美少女を舐めきった対戦相手」「挑発・言葉責め」「血で染まる」


「深雪(みゆき)!今日も張り切ってトレーニングしようか!」
「変質者なんか、いるわけないって・・・集落の人はみんな顔見知りなんだから・・・」
本当に雪のように白く可憐な指だと、見とれてしまう。大切な妹の拳を守るべくバンテージを厚く巻きつつ、兄は続けた。


「お兄ちゃんがいれば、お前をいつでもどこでも守ってやれる!だけどな、いつもお兄ちゃんがいるわけじゃない。
深雪も、12歳になったんだから護身術のひとつぐらいは身に付けておくべきなんだ!だから、頼む!!」
「もう、馬鹿なんだから・・・今日だけだからね」
「今日だけ」が、あれから毎日続いている。少女は跪く兄の肩を優しく叩くと、装着した10ozの白い紐を咥えて見せた。


強くなりすぎて相手になる奴がいなくなったとは、兄自身の弁だ。
去年の初秋、一村兄妹は山菜を採りに出かけていた。村は、その面積の多くが山野と耕作放棄地で占められている。
熊から妹を守り、ボクサーとしての命である脚に深い傷を負った事が、ボクシングをやめた本当の理由だ。


――「俺が引き付ける!早く逃げろ!絶対に背を向けるな!てめえ、よくも深雪を恐がらせたな・・・許さねえ!!」
小型の熊とは言えど、その一撃は容易く人の骨を断つ。恐怖と闘う兄の鬼気迫る表情が、少女の記憶に深く刻まれた。
好きなボクシングも、命までも投げうって自分を守ってくれた兄の気持ちが、痛いほどに少女の胸へ沁みた。
だからこそ兄の退院後、少女は見るのも嫌だったグローブに渋々ながらも拳を通すようになったのだ。


ここ数日は雪こそないものの、日中も氷点下10度に冷え込む真冬の村。だが、一村家は今日も異様な熱気に包まれていた。


「俺の一村幸一って名前は、一つでも幸せを見つけられるようにと名付けられた。
お兄ちゃんが人生で見つけた唯一の幸せは、お前だ。本当に愛してるよ、深雪・・・」
これはプロポーズの言葉ではない。れっきとした、血の繋がった実の兄妹の「日常会話」だ。
これって軽い拷問だよね・・・と、少女は10ozの拳をぶら下げたまま苦笑いを隠せない。


――俺がお兄ちゃんじゃなかったら、お前のような天使を絶対放っておかない!
――なんでお前は、俺の可愛い可愛い「妹」なんだ!うらむぜ、父ちゃん母ちゃん!
――でも、父ちゃん母ちゃんがいなければ俺も深雪も産まれなかった・・・やっぱりありがとう!
この男を形容するには、「馬鹿」という単語が最も適当だった。
妹とボクシング、それ以外については、辞書に最初に書いてある意味の「馬鹿」
妹とボクシング、特に妹については・・・愛しすぎるがゆえの「馬鹿」だった。


本当に毎日、どの角度から見ても飽きないどころか
実の妹なのに、熱い視線を向ける事に背徳感を感じてしまう程に、少女の美は兄を打ちのめしていた。


少女は、服装の流行に無頓着だった。純白の半袖生地に明るい桃色の衿、大きなリボンのように帯を後ろで縛っている。
その飾らない和装が、かえって少女の素朴な愛らしさを引き立てていた。
腰まで伸びた髪は、陽の当たり方によってどこか青みがかったような幻想的な光沢を湛えていた。
まるで、理想美をそのまま形にした二次元の存在だ。真紅のグローブが、更にその美の破壊力を増す。


一村家に、一対の10oz以外の練習器具などない。構える掌へ、爽やかな刺激が弾ける。
「よし!連打連打!いいぞ!強いぞ深雪!!」
立てた右掌に左のジャブ、伏せた左掌へ右のアッパーカット。
あえて強く押すように受ける事で高らかに破裂音を響かせ、少女に爽快感を、己に痛みと興奮を与えていく。


兄は、少女の凛々しいグローブ姿と心地良い両掌の痺れに心臓が高鳴り、涙が出そうだった。
レーニングは、スタンスとパンチのフォームを確認する3分間を終え、「仕上げ」へと入っていく。
30秒後、今日も兄は込み上げる倒錯した幸せを、じんわりと噛み締めていた。


「お兄ちゃん・・・もう、本当に馬鹿なんだから・・・」
少女は膝枕に兄を抱える。丈の短い着物は、ミニスカートを思わせた。むき出しの太腿へ、兄は火照った顔を埋めた。
ほんのりと甘い、神秘の香り・・・天使の子守唄が、男を安らかなまどろみへと誘っていく。


兄は妹へ無限無償の愛を注ぎ、妹は兄の濃厚過ぎる愛にどこか辟易しながらもそれを優しく包容する・・・
安息に満ちた兄妹のひと時は、永遠に続くかと思われた。



[お題で妄想] その8の2


減りゆく人口は推計で1000人に迫り、人口密度は1km四方で5人にも満たない・・・
少女の言う通り、この険しい山々に隔離された村に、変質者など存在するはずもなかった。
旅立つ者は多くとも、入り来る者など一人もいない。少女の集落を構成する世帯数は、両手の指で数えて足りる。


だが「その男」は、首都からやってきていた。
鉄道・バスを乗り継ぐ事11回。目的は、美少女・一村深雪・・・それだけだった。


少女の通う小中学校は、開校111周年を数える歴史ある学校だ。全校生徒は11名。小学生が7名、中学生が4名。
修学旅行・・・5年男子2名、6年女子1名の生徒達は、初めて見る大都会の幻想に酔いしれていた。
とある巨大動物園。男は動物を見に来ていたのではない。動物を見る少女達を視姦する事が、何よりの愉悦だった。


5年生の2名は既に慣れていたが、少女の瑞々しい愛らしさは、どの動物よりも男達の眼を釘付けにした。
すれ違ったその一瞬、男のギラついた視線はその名札をしっかりと捉えていた。
「・・・いちむら・みゆき・・・」
帰っても、少女の眩しい太腿が、青く輝く流麗な髪が、男の眼球に焼き付いて離れなかった。
21世紀を迎えて数年、進歩した携帯電話には立派なカメラ機能も付き始めた。なぜ撮っておかなかったのか・・・
男は深く後悔し、日ごとに募るばかりの歪んだ恋心はついに最後の良心を吹き飛ばし、この旅を決断させたのだ。


「・・・お兄ちゃん・・・私、お風呂に入りたいんだけど・・・」
兄は温かく柔らかな桃源郷から、あわてて飛び起きた。
「ふはっ!・・・すまん深雪!いい汗をかいたな!じゃあ今日こそはお兄ちゃんと一緒にお風呂で・・・」
パンッ、と音を立て、少女の軽い左ジャブが右頬へ弾ける。
「ぐふっ、やっぱりダメか・・・」
兄は本日二度目の、幸せなノックアウト負けを喫した。


翌日。村に一つしかないスーパーへ歩いて行ける事は、一村家の特権だった。
「遅くから吹雪らしいし、お料理の材料だから・・・私が行ってくるね」
「待てい深雪!灯油も買うんだろ?ならばお兄ちゃんに任せろ!」
「だーめ。この前もネギとウド間違えたでしょ?馬鹿のお兄ちゃんに任せたら変なもの買ってきちゃうし、それに・・・」
「それに?」
「それに・・・脚もまだ治りきってないしね」


少女は雪国育ちで寒さには慣れているとは言え、白い腕と太腿が露出したこの格好で外を出歩く訳にはいかない。
やはり白と桃色で統一されたフード付きのコートを羽織り、氷に滑らぬよう底が工夫された青い雪靴を履く。
そして、その手には兄の真心がこもった、明るい桃色のミトン式手袋がはめられた。


大きな左の掌が下に向けられる。少女はおずおずと右拳を上へ向け合わせる。
「気を付けろよ」「変態にはアッパーだからな」と、兄は妹の外出の度に口を酸っぱくしていたのだが
それが度を過ぎ妹に説教され、思わず涙してしまったことがある。
馬鹿で、しつこくて・・・本当にどうしようもない兄だった。だが、少女には兄の気持ちがわかっていた。
少女は本当に自分の事を心配してくれている兄の気持ちを汲んで、このような挨拶の決まりを作る事で
ボクシングの技を、アッパーカットを忘れないでくれという兄の想いを己の拳へ確認させているのだ。


幸い、雪はまだ降っていない。灯油用に、一番大きく丈夫なソリを選ぶ。
――行きは灯油もないし、近道の林道にしようかな・・・


少女が兄に買い物を譲らなかった本当の理由は・・・翌々日に兄の誕生日が控えていたからだ。
ケーキの材料を、こっそりと買うつもりでいたのだ。
――うふふっ・・・いきなりケーキを出したら、お兄ちゃん心臓発作で倒れちゃうかも・・・


男は前日からこの村へ入り、少女の家とスーパーの位置、そして周辺の地理を調べ尽くしていた。
地図上の直線距離では近そうに見えるが、実際は山を「Ω」の字に迂回するため、舗装道を行けば二倍近い遠回りになる。
荷物のない往路は、狭く人目につかぬ林道を通るはずに違いなかった。


閉鎖中の公園、深い雪から顔を出した唯一の遊具、ジャングルジムの頂上から望遠鏡で一村家の様子をうかがう男。
――やっと、出てきたな!
男は急いで林道の出口へと走り出した。少女に先に林道を越されては、全ての計画が台無しだ。
凍った路面に何度も転び寒さに冷え切った身体とは裏腹に、下半身は灼熱の如く怒張し、湯気すら立てていた。


少女は自然と家族を愛する優しい性格の、その類稀なる美しさを除けばごく普通の少女だった。
殴り合いなどした事もないし、これからの人生も、全く流血沙汰とは無縁の生活を送るつもりだった。
この男と出会うまでは。



[お題で妄想] その8の3


――硬い根っこが雪に埋まってるから、気をつけないと・・・
仄暗い林道に夕陽が射し込んでいる。雪に反射した木漏れ陽が、神秘的に美少女の姿を照らし出す。
近道とは言え、片道60分の道のりが35分になるというだけだ。高齢化が止まらないこの集落で
高低差が激しく複雑に曲がりくねるこの木々の隙間を「道」として捉えている住民は、一村兄妹だけだった。


林道も三分の二を過ぎた頃、見知らぬ男が小走りに向かってくるのが見えた。
――郵便局のドライバーさん・・・じゃない。新聞配達のおじさんは知ってるし・・・


少女は違和感を感じながらも、異様に息の乱れたその様子に、ソリを木に立て掛け話しかけた。
「あの・・・大丈夫ですか?胸が苦しそう・・・きゃあっ!」
男はジッパーにしがみ付くかの如く一気に引き下ろすと、少女のコートを力任せに脱がせ、自らの後方へ投げ捨てた。
「何、するんですかっ・・・!?お巡りさんを呼び・・・あっ!」
携帯電話は、コートの胸ポケットに入っていた。


男は少女の腰の細さ、余りの身体の柔らかさに言葉を失い、野獣の如く首筋の匂いを貪り嗅いだ。
火のように熱く白い息が顔にかかり、ひび割れた醜い唇が天使の顔へ迫り来る。
そして、着物の脚と脚の間へ男の左手が伸びたその瞬間


――助けて、お兄ちゃん・・・!
――「深雪!・・・アゴを、突き上げろ!」


「いやっ・・・やめて下さい!!!」
バチッ・・・!
無意識の反射だった。密着の間合いを垂直に斬り裂き、男の前髪をかすめた桃色の弾丸。
静電気でも走ったのだろうか、男はその右拳に思わず尻餅をつき、頭を振った。


――「無理なくパンチが打てて、すぐ距離を取れる体勢をキープするんだ。脚はこう、拳の位置は・・・」
少女は兄の言葉を思い出す前に、拳を構えていた。毎日叩き込まれていた習慣が、そうさせたのだ。
男は雪を払って立つと、少女の凛々しいファイティングポーズを眺め回した。体格差、年齢差・・・そして性差。
「面白えじゃねえか・・・よお、『みゆきちゃん』。クヒヒ・・・手袋もまるでボクシンググローブみてえだなあ。
俺をノックアウトしてくれるってのかい?・・・逃げねえのなら好都合だ。しゃぶりつくしてやるぜ!」
男は少女を完全に舐めきっていた。大人の男の力で軽く押し倒せると、当然の如く思っていた。


見知らぬ男が自分の名を知っていて、からだを狙っている・・・込み上げる恐怖に、少女の長く美しい脚が震えた。
――お兄ちゃん、どうしたらいいの・・・?
兄が愛する妹へ教えたのは、あくまでボクシングをベースとした対変質者用の護身術だ。兄の言葉が脳裡に蘇る。
――「逃げろ!だが、立ってる相手に絶対に背を向けるな!小柄なお前は、大人の男に追いつかれてしまう!
――打て!打つんだ深雪!顔面を思い切り打ちのめした後、倒れた隙に思い切り走って助けを呼べ!」


二つの白い息の沈黙。身体の内からわき上がる熱い火照りに、露出した腕にも太腿にも、少しも寒さを感じない。
その正体が何なのか・・・初めて兄以外の人間へ拳を構えた少女には、未だにわからなかった。


――「まずはジャブで距離を測れ!軽いパンチとは言われるが、鼻に決めれば素人は痛みと涙で動きが止まる!」
両腕で抱き締めようとする男。しかし出足が雪につまづいたのか、棒が折れるようにグニャリともつれた。
思わず前につんのめったその鼻を、少女の左ジャブが鋭く打ち上げた。
ぱきっ、とクリスピーな感触が、少女の拳に伝わる。紛れもない、おぞましい「暴力」の味だ。


男は鼻っ柱につぅんと弾けた痛みと、美少女の思わぬ抵抗に驚愕するが、それが却って情欲を沸騰させた。
狩りは獲物が抵抗するから面白い。組み伏せてしまえばこちらのものだと、意気込んで突進する男。
だが雪に足を取られた訳でもないのに、またしても何故か、膝が動かなかった。上半身だけが、倒れ込む。


――「距離を制する者が勝者になるんだ!俺の手袋で打てば、お前の拳は傷つかない。鼻を折るつもりで打て!」
幾度となく「仕上げ」を飾った「ダブル」・・・左ジャブの二連発が特訓通りに男の鼻をクリーンヒットした。
残酷な異変が、起こり始めた。右の鼻が突然詰まり、左でしか息が吸えない。いらついて思い切り右鼻をすすると
「ゴホッ!!」
喉に鉄錆の味が逆流し、男はむせ返った。少女の白い脚に、薄い血痕が点々と飛び散る。


薄い左の手袋、中指の関節にあたる部分に小さな紅の染みができている。
――ここで、この人を、殴ったんだ・・・
痛痒いような不思議な痺れが、いつまでも消えない。生まれ出た激情は、その小さな胸の中で解放の時を待っていた。



[お題で妄想] その8の4


兄手作りの、満12歳の誕生日プレゼント。それは誰が作った物よりも妹の手にフィットし、抜群の断熱性を発揮した。
少女も、手袋をしたまま親指で携帯電話を扱える操作性と、手首を覆うモコモコの可愛らしさを気に入っていた。
0ozのグローブを意識し、兄が無い知恵を絞って妹の為に考え抜き、指を針傷だらけにして作ったものだ。
もしもの時にも使えるようにと、ナックルの部分は硬い布地を二重に仕上げてある。一見して柔らかなシルエットだが
少女の打撃への躊躇を払拭し、被撃者の顔面を確実に破壊する・・・バンテージに近い、言わば「凶器」だ。


1発ならば、可愛い抵抗として許せた。だが3発も一方的に顔面を打たれては、まるで人間サンドバッグだ。
男は恥辱に我を忘れていた。少女のからだを掴むはずの両腕が空を切り交差し、またしても顔面が露わになる。
何故か、目測自体が手前に50cm以上も外れていた。長髪が風に舞い、桃色の衝撃が視界の下半分へ迫り来る。


悶え転がる兄の姿が蘇る。少女は柔らかな唇を噛み締め、決意と共に男の鼻を右拳で捉えると、撃ち抜いた。
――「顔面へのパンチは、急所を捉えれば深雪が打った10倍の苦痛を与える!ハァッハァ・・・俺でさえ10oz越しに
――鼻血を噴くんだからな・・・あの手袋で思い切りストレートを叩き込めば、相手は鼻が折れ血の海に沈む!」


拳が骨まで達したのが、手応えでわかった。男の鼻が、ぶじゅう、と潰れる感覚が拳へ伝わる。
既にダブルジャブで鼻腔に溜まっていた鮮血が押し出され、天を仰いだ右鼻から勢い良く破裂するかの如く噴き出した。
首が戻ると、直撃を受けた左の穴からもどす黒い血が止め処なく溢れ出し、男の顎からボタボタと垂れ落ちる。


「いっ、いやっ・・・!大丈夫っ、ですか・・・!?お、お鼻が・・・!」
「はがァ・・・!もぶェはがっがァ・・・!!」
こんな残酷な光景、どんな映画でも見た事がなかった。少女を襲う恐怖は、見知らぬ変質者への恐怖ではなく
12年間己の拳に封印され、今まさに開放されんとしている未知なる力への恐怖に変わっていく。


正視に堪えず、思わず眼をつむりそうになる少女に、兄の言葉が蘇る。
――「絶対に背を向けるな!どんな時でも相手を見据えろ!」
男は狂乱し両拳を振り下ろそうとした。だが、拳を持ち上げようとする動き自体が、滑稽な程に遅れていた。
見開かれた少女の眼には、男の両腕が顔面を通過するのを待つ余裕すらあった。


「ワンツーパンチ」・・・その破裂音は、少女の耳には「ぱんっばちぃっ」と、男の脳には「ごっぼぐぅっ」と響いた
少女の眼に、何かが入った。雪ではない。返り血だった。
少女は唇を艶かしく舐め、明るいピンクの手袋に幾つも破裂した紅色へその舌を這わせると、味を比べた。


少女は、この瞬間に己自身がどれだけ残虐で妖艶な笑みを浮かべたか、意識していなかった。
両鼻が血で塞がれ、巨木を背に息を切らせている男。鼻と少女の肩が、同じ高さに並んだ。
――「連打には緩急を付けるんだ。深雪の武器は鼻への右ストレートだ!右を思い切り打ち抜け!」
――うん・・・わかってる・・・お兄ちゃん・・・
淡桃色の弾丸は一撃ごとに鮮血の紅に染まりつつ男の顔面へと殺到し、男は生けるサンドバッグと化した。


左ジャブ鼻、左ジャブ鼻左ジャブ鼻、右ストレート鼻、左ジャブ鼻右ストレート鼻
左ジャブ鼻右ストレート鼻左ジャブ鼻右ストレート鼻左ジャブ鼻左ジャブ鼻右ストレート鼻右ストレート鼻右ストレート鼻


哀れな男はこれだけ一方的に少女のパンチを顔面へ浴び続け、ぐったりと腰を落としても
なお美少女を、全身をほのかな紅に染めた雪の天使を舐めきった態度を崩していなかった。
己の肉体が精神から乖離し続けている冷厳な事実さえ、認めようとはしなかった。


――どんな女もこいつを見れば泣いて俺に服従する・・・男の強さにひれ伏すがいい!
大木を後頭部と背中で登るように立ち上がり、ついにナイフを取り出す男。その顔は鼻血と涙に濡れている。


見せ付けるように右手で弄ぶが、明らかに指がもつれており、投げ上げた柄ではなく刃を掴んでしまう。
少女は一瞬の隙を見逃さなかった。紅に染まりつつある右拳が視界を覆い尽くすかの如く男の鼻梁を上から圧し潰した。


特別に少女の反射神経や運動能力が優れていたわけではない。全てを決めたのは、最初の一撃だった。
「ピンポイント・ブロー」・・・男の顎先を偶然にかすめた右のアッパーカットが、脳へ致命的なダメージを与えたのだ。
そして男の行動全てが自己の意志から遅れ始め・・・頭蓋へ弾ける少女の拳が、そのタイムラグを更に拡げていった。



[お題で妄想] その8の5


硬い右拳と大木に顔面を圧搾されながら、男は激痛の暗黒の中、苦し紛れに刃で掴んだナイフを投げ付けた。
――「右ストレートは諸刃の剣だ。絶対に左拳のガードを下げるな!」


この手袋と兄の教え、どちらかでも欠けていれば手首か喉を裂かれていた。削ぎ取られ、綿雪のように散った生地。
白いモコモコの内側には、妹の手首を守る為のステンレス糸が編み込まれていたのだ。
少女の清潔な歯が、ギヂギヂと軋んだ。刃を向けられた事よりも、兄の心がこもった手袋を切られた事に、憤激していた。
そして少女は怒れば怒る程に、氷の刃の如く冷徹に精神が研ぎ澄まされて行くタイプだった。


懐から二本目のナイフを出し、全身全霊を込めて背中で大木を蹴り、倒れ込むように右手で突き掛かる男。
明確に向けられた「殺意」・・・動作は緩慢だが、少女の骨を容易く断つ程の体重が載っている。
貞操の危機は生命の危機へと変わり、先週教えられたばかりの、あるレッスンが脳裡に蘇ると同時に行動へ移された。


――「お兄ちゃんも、これだけはマスターできなかった・・・お前に教則ビデオを見せるしかないなんて、恥ずかしいよ」
「カウンター・パンチ」・・・相手の右を沈み込むように躱し、伸び上がる膝のバネを活かした右のストレートだ。


これまでと違っていたのは、パンチの質・・・少女の「自制心」の有無だった。
インパクトの瞬間、その凶悪な威力は壮絶なる反作用に示された。柔らかな長髪が全円に青いオーロラの如く拡がり
右拳と顔面の僅かな隙間から迸った鮮血を受け止め、この世ならざる魔性の艶を魅せ付けた。
今までは、たとえ相手が犯罪者であっても必要以上に叩きのめさぬよう、無意識のブレーキがかかっていた。
怒りの鍵が、少女の狂気を封印していた禁断の箱を開いてしまったのだ。


機関銃を思わせる左ジャブの連射が砕けた男の鼻を正確に捉え続け、再び大木へ縫い付ける。
10発、20発・・・男の顔面を貫通して共鳴する脅威は枝先にまで伝わり、積もった雪が舞い散った。
自らの力への恐怖は、雪に混じって迸る返り血に洗い流され・・・いつしか残酷な優越感に変わっていた。


伸ばされた右手は、少女への「怯え」・・・男の生存本能そのものだった。
真紅に染め抜かれた左拳で思い切り撃ち払い、見上げたその顔面へ、少女は非情の右拳を打ち下ろした。
直接教わってはいないが、兄がKO勝利を得た唯一の試合のビデオを何度となく見せられ覚えていた
「パアリング」というボクシングの防御テクニックだ。
男は雪の下に隠れていた木の根に後頭部を強打し、動かなくなった。


少女のパンチが男を一方的に翻弄できた理由は
兄の過剰とも言えるボクシングの熱血指導にあった。その方法は、どのような名トレーナーにも真似が出来なかった。
「いいぞ!ナイスパンチ深雪!じゃあ『仕上げ』は・・・サッ、サンドバッグだ!」
ジムならば常識的な台詞だが、ごく平凡な中流家庭の一村家にサンドバッグなどはない。
この台詞を聞く度、美少女は身の毛もよだつ恐怖に震えた。即ち、兄の言いたい事は
パンチを教えた仕上げとして、己の顔面をそのグローブで打ち抜けという事なのだ。


確かに、兄の教えるパンチはいつ襲い来るか知れぬ変質者を打ち砕くためのものだ。
実戦に近い練習は、理に適っていた。だが、その方法が優しい少女には余りにも残酷すぎた。
兄の、鼻先を、攻撃目標を差す指が小刻みに震えている。当事者すらも、少女のパンチに、恐怖しているのだ。
「おっ俺の、顔面をっ!ハァッハァハァ・・・変質者だと思って・・・叩きのめすんだ!!」


余りにもおぞましい、10oz越しに実の兄の鼻軟骨がグニャリと歪む感触。
最初のレッスン「左ジャブ」の「サンドバッグ」特訓は、まず両手で少女の10ozを取り
自らの鼻へナックルを押し当てながら、拳と鼻の骨が押し合い、鼻中隔の変形する感触に慣れさせる事から始まった。
次第にスピードを早くする事により、7日目にして初めて「パンチ」と呼べる左ジャブが男の顔面を弾いた。
「右ストレート」の「サンドバッグ」は、特に凄惨を極めた。兄は、指の間から垂れる鮮血を妹に見せぬべく床に伏せ
妹は、兄の鼻を撃ち抜いてしまった罪悪感にその顔を覗き込むしかなかった。


かくも恐ろしく積まされた「人を殴る経験」が、実際に身を守る段になって妹の精神的財産となった。
実の兄が毎晩自分のパンチで脂汗を流し鼻を押さえて苦悶するのが、痛々しくてたまらなかったが
その酸鼻たる有様が、少女へ知らず知らずの内に「自分のパンチでも人を壊せる」という自信を与えていた。
そして的確なダメージの積み重ねが男に刃を出させ、図らずも少女の内に眠る獣を目覚めさせてしまったのだ。



[お題で妄想] その8の6


責める言葉の口数は少なかったが、どの一言も、幼さ故の無慈悲な残虐に満ちていた。
虫も殺さぬような清楚で優美な容姿と滴る返り血のギャップが、ますます男の心を引き裂いていく。


「悔しいんですか?」
喉元へ切先を突きつけ、少女はいった。上着を剥ぎ取られ大木を背にした男。震える血塗れの頬を、涙が伝った。
「死にたいんですか?」
ナイフ三本、スタンガン一個、携帯電話・・・全ての武器と希望を奪われた男は、返事の代わりに絶望の嗚咽を漏らした。
「そんなに悔しいのなら自分で死ねばいいんじゃないですか?ほら、あと少しだけ前に・・・首だけなら動かせますよね」


少女は、ナイフを突き刺した。男の左耳の横で、大木に咥え込まれた刃がぶるぶると揺れている。
「死ぬ勇気もない、意気地無し・・・じゃあ、『こっち』が好きなんですね」
紅と桃色の手袋を思い切り打ち合わせる。そのおぞましい爆裂音に、「以前の少女」ならば自ら恐怖したはずだった。
奪われたコートの中から、携帯電話のみを回収する。燃え盛る狂気の炎が、少女に防寒着すら必要とさせなかった。


「『お手柄女児(12)、兄譲りのボクシングで変態刃物男を壮絶ノックアウト』・・・新聞が楽しみですね。
・・・私があなたなら、恥ずかしくて生きていけないと思います」
逆らえなかった。男は恐怖に支配されるがまま美少女に手を引かれ、眩む意識の中、林道を引き返した。
足が異様に重く、雪に精気を吸い取られていくようだった。林道を抜けた直後、男は力尽き大の字に転がった。


灯油の代わりに男を載せ、長い縛り紐で両腕までも後ろ手に拘束する。
少女はスーパーの方角に背を向け、村唯一の交番へソリを引き始めた。夕陽は沈み始めていた。


それから10分・・・街灯が二人を照らし出すと同時に、突然ソリは停止した。
「今から質問をします。よく考えて二つのうち、一つだけを選んで下さいね」
振り返る少女の、屠殺を待つ豚を見下ろすような冷たい視線に、男はガクガクと頷いた。
「交番さんに突き出されたいですか?」
男は首を横に振った。
「私のパンチが恋しいんですか?」
男は首を更に激しく横に振った。
「失格。二つに一つと言いましたよね。たぁっ・・・」
白く甘い吐息を吹き掛けた左拳を握り締めると、飽和状態にまで染み込んだ男の血が、ボタボタとソリへ垂れ落ちた。
「・・・ぷりと、殴り潰してから、交番さんに突き出してあげます」


それから更に10分・・・凍り付いた摩擦の少ない路面とは言え、灯油缶より重い男の体を引くのに、少女は飽きてきた。
男の足を外し、歩かせようとするが・・・すぐに膝を突いてしまう。少女は再び男をソリに正座させ、更に厳重に縛った。
「もう自分で歩く力も残っていないようですね。今日の夜は吹雪・・・放置すれば、あなたは確実に凍え死にます」


――「フックは俺も苦手だし、身長差を考えると深雪には勧められない。一応、覚えておいてくれ」
――そう、腰を斬るように回して、肘を固定したまま・・・
左拳が鮮血を振り飛ばし空を斬るたび、異様に丈の短い着物が風圧でめくれ上がり、男は見上げる神秘に圧倒された。


「可哀想だから交番さんで暖めてあげようと思ったのに・・・人格破綻者さんの考える事は、理解に苦しみます、ねっ!」
少女の「左フック」は目測を誤ったのか、あろうことか男の砕けた鼻だけを真横から圧し潰した。
鼻腔内で固まっていた血の氷がズタズタに肉を裂く刃と化し、体内から迸り出た熱い鮮血をビチビチと吸いながら
振り抜いた全身の反動を活かした「右フック」が、今度は狙い通りに男の顎を撃ち抜いた。
下り坂の歩道を激しくスピンしつつ、鼻血を撒き散らして滑走していく男。
凍った路面に残された紅の幾何学的曲線は、理性の光を失った美少女の眼を大いに楽しませた。


「Ω」の字、南東の自宅から真西に林道を抜け、南西のスーパーを背にして円形の頂点までやってきた少女と男。
ここから北へ45分程歩けば、交番に着く。5分程歩いた所で、少女の足取りが止まった。


放置された公園は、「冬季閉鎖中」の立て札すら積雪に埋もれていた。身の丈をゆうに越す雪の壁へ、ソリを立てかける。
「誰か」が「何らかの目的」の為に雪を除けたのか、入り口近くの滑り台の階段を登ると容易にその上部へ到達できた。
殆どの遊具が埋もれた、静寂の白。何故、少女はこのような場所に、男を引き上げたのだろうか。


閉鎖的な、何の娯楽施設もない山村の中、無意識に鬱屈していたどす黒い欲望。
――ヒトって、どんなふうに壊れるのかな――
幼き氷の天使、その胸に秘められた無邪気な残虐性・・・今まさに、雪の中にその真紅の花が開こうとしていた。



[お題で妄想] その8の7


「アッパーカット・・・」
少女は僅かに桃色を残す右拳を握り締め、最後のパンチが残っていた事を思い出し、うわ言のように呟いた。
林道で男の顎をかすめ脳を蝕んだ無意識の一閃を、少女は攻撃として認識していなかったのだ。


――「アッパーカットはセルフディフェンスには一番のパンチ・・・お前の力でも、大人の男を一発で倒せる必殺技だ!」
頼むからこれだけでも覚えてくれと、脚へすがり付く兄の姿を今でも覚えている。
――「こう、抱き付いてくる相手の顎へ・・・あぶっ!・・・そうだ!フォームはそれでいい!
――もっと膝を使って、鋭く・・・ぶぐふっ!はァッ、ふゥ・・・そっ、そんなんじゃ相手は、手を離して・・・!
――・・・がほおぅっ!おぶぅっ!・・・ひっ、ひいっ・・・今日はもう、やめて・・・!ぶっふゥ・・・」


――サンドバッグで私の右ストレートをどんなに顔に受けても、やせ我慢していい気持ちだとか言ってたお兄ちゃん・・・
――ぐったり倒れてきたお兄ちゃんの顎を、つい撃ち抜いちゃって・・・失神して、大騒ぎになっちゃったんだっけ・・・
切り裂かれた左の手袋に、愛する兄との楽しい思い出を汚された憎悪が溢れ出し、直ちにその激情は行動に移された。


「発射」された男は、空中で海老反りに硬直し、頭頂部から雪へと突き刺さった。
滑り台の頂点を足場に、膝の爆発力を意識した芸術的な一撃を祝福するように、鮮血の雨に混じって白い粒が降り注いだ。
それは雪ではなく、歯だった。柔らかな唇が、淫らに歪んだ。二度と再生しない身体の一部分を奪ったという事実が
魂の奥底に僅かだけ残っていた良心の呵責を完全に取り除き、美少女の拳を純化させた。


「死にました?」
額を踏み躙られ、男は血の泡を吹き返し言葉にならぬ命乞いの視線を向けた。月明かりに銀歯が見えた。
「まあ痛そう・・・虫歯の治療をしてあげますね。あいにく麻酔は切らしてまして」
踏み締めた足が僅かに雪に沈み込み、右拳の軌道が狂い・・・男の砕け切った鼻梁を垂直に猛爆した。
夥しい鮮血と断末魔の絶叫が、寒村の死角に爆裂した。少女は迸る鮮血でうがいをすると男の額へ吐き掛け
マウスピース代わりのつもりなのか、掘り起こした白雪を男の口内一杯に詰め込み、左手に携帯電話を構えた。


正確性を意識した右アッパーカットの連打・・・目標は男の鼻だ。地上に、地獄が現出した。
13発目の右拳で赤黒く挫滅した鼻を塞ぐと、喉へ逆流した鮮血が雪に混ざり合い、口から溢れ出す。
「うふふっ・・・氷イチゴですね」
紅く染まった画面。13枚の連写で見せ付けられた己の壊れ行く姿は、男の自我すら崩壊させるに充分過ぎた。


<何でもしますから許してくださいお願いします>
鮮やかな指裁きで、13枚目の「氷イチゴ」の画像にタイトルが付けられた。
男は十数秒も掛けて頷き・・・幼き死の天使、その狂気の眼光が雪原を焼き払った。
足跡を辿り、行き着いたジャングルジム。登ってみると、一村家の灯が見える。足跡の主への疑念は、確信へと変わった。


雪の下に少女を支えるべき確固たる足場が浅く隠れ、雪の上に男が罪を償うべき磔台が露出していた。
「何でもするって、頷きましたよね・・・それでは、噛んで下さい」


鉄骨の内側へ男を跪かせるように押し込み、鉄棒を口に咥えさせる。
足場から力を得た真なる右のアッパーカットが、男の顎へ鼻へ、交互に炸裂し続けた。
鼻へのアッパーカットの齎す激痛が神経系を狂わせ全身の血流を頭部へ集中させ
顎へのアッパーカットにより迸る鮮血の飛沫に骨と肉片が混じり地獄の一切を狂気の色彩に塗り潰す。
男も雪も少女の拳も顔も全てが完き真紅に染め抜かれ、反射した街灯の光が殺戮の天使の姿を神々しく照らし出した。


鮮血と歯の織り成す爆風が、やがて紅色だけとなり、その勢いも次第に弱まっていく。
もはや、撃ち分ける必要はなくなっていた。顎を正確に撃つ拳は、砕けた顎を貫通して鼻を潰すようになっていたからだ。


男は鉄の棒を咥えたまま冷たくなり始め、ついに、あれだけ苦悶していた鼻への拳撃にも、何の反応も示さなくなった。
――もう、壊れちゃった――
男のズボンから、白い煙が立ち昇った。それは、最期の瞬間に子孫を遺そうとする、原始生命の足掻きに他ならなかった。


――つまんない――


<着信:お兄ちゃん>
血に凍り付いていた携帯電話が、鳴り始めた。


「もしもし、お兄ちゃん?・・・うん。遅くなってごめんね・・・あのね、お兄ちゃん・・・二日早いけど・・・
お兄ちゃんにプレゼントしたい物があるの・・・これから帰るから・・・『サンドバッグ』の用意をしておいてね」