スレ企画[お題で妄想]その7

[お題で妄想] その7の1 「中学生くらいのボクっ娘」「化け物/妖怪退治」
メリケンサック/カイザーナックル」「攻撃するたびに揺れる髪/ツインテール」 


螺旋に舞う濃紺のプリーツスカート、同じく濃紺と純白を基調とした半袖のセーラー服
そしてツインテールに結んだ艶めく黒の長髪が、生温かく吹き付ける澱んだ風になびいている。
百年の昔から変わらぬ、清純にして無垢なる女学生・・・
現代でも充分に通用する「美少女」のイコンその物のシルエットが、満月の光に浮かび上がる。
その少年を思わせる一人称と中性的な顔立ちが、対峙する全ての男を魅了し
得体の知れぬ不安に満ちた、それでいて決して視線を逸らす事の出来ぬ、魔性の憧憬を与えずにはおかない。


西暦2113年春、この国では年が変わると共に、突如として異形の者達が出没するようになった。
人々は彼らを「妖怪」と呼び、恐れた。政府は全国から年齢性別にかかわらず霊能力に優れた者を集め
対妖怪特殊部隊 "Reinforced Infantry as Opposed to Strangers" 通称、RIOSを結成していた。


博物館から借りてきたような、アンティークを感じさせる折り畳み式デザインの通信端末を開く少女。
携帯電話・・・21世紀の初頭まで、国民に広く普及していたとされるものだ。
勿論、中身は通常の端末と変わらない。少女のマニアックとさえ言える懐古趣味の表れだった。


「あーあー、マイクのテスト中・・・こちら、ライオス第五小隊第六分隊第四班、美那
FORCE R-TYPE IIを要請する。座標、333434・・・」
岩陰に隠れ、端末を耳に当てる少女は、その妖しい美貌を除けば、普通の女子中学生と何ら変わらない。


少女は慣れた手つきで端末を折り畳むと、シニカルな笑みを浮かべ、遠く蠢く今宵の標的へ視線を戻した。
――ふふ・・・下らないとは思わない?こんな、子供じみた戦争ごっこ・・・
――第四班も第六分隊も第五小隊でさえ、ボク一人しかいないってのにさ・・・


対妖怪捕縛用レーザーフィールド "a Field Optimized to Restrict Cruel Enemies" 通称、FORCE。
工業用レーザーを基にした兵器で、目標物を必要以上に傷つけぬよう、過剰な放熱を抑え反発力を発揮する。
少女はRIOS特S級の権限により、自身の戦闘スタイルに合わせたフィールドを形成できる。
R-TYPEとは、正方形の領域を4本のレーザーが囲む、言わばリング式の檻であり
標的のサイズにより、R-TYPER-TYPE II、R-TYPE IIIと分かれる。


通常のFORCEは、妖怪を狭く囲み、外側から麻酔弾などで捕獲する為のものだが・・・
「ていやぁっ!」
勇ましい掛け声と共に、赤白青白のレーザーフィールドを飛び越し「リングイン」する少女。
少女の戦闘スタイルは、自らも檻の中へ入り、標的をその白銀の拳で叩き伏せる「ボクシング」だった。
FORCEが照明代わりとなり、檻に閉じ込められた妖怪と少女の姿を眩しく照らし出す。


――カバ?キリン? 違う。赤いし・・・うん。キミはかまぼこクン・・・そうしよう。
――「ぼこ」って語感が、たまらないなあ・・・皮膚は厚そうだし、マトも大きいし・・・


異形は、その所業から「妖怪ロリなめ」と呼ばれ、忌み嫌われていた。
僅かな凹凸のある豆大福のような、シンプルな胴体。少女の肩口あたりの高さから、多関節の長く太い首が伸びている。
落ち武者を思わせる頭部は真っ赤で、縦横に成人男子の1.5倍はあるが、目鼻口などの構造は人間と全く変わらない。
よくよく見なければ分からぬ程その体躯に埋もれてはいるが、4本の足が申し訳程度に生えている。


――フラットで、硬さも充分。磁場も異常なし、っと・・・
少女はトントンと跳ね、大地とシューズの感触を確かめる。FORCEは、領域内に強力な磁場をも発生させる。
妖怪は、突然閉じ込められた事と、恐らく己を「駆除」しに来た戦士の余りの可憐さに戸惑っているようだった。


「どう?この、平成どころか昭和さえ感じさせるフォルム・・・カワイイとは思わない?
なんていうの?ほら・・・『ザ・暴力』って感じでさ・・・って、ボクの言葉がわかるわきゃないか」
少女の白く儚い両手の指へ、禍々しい光を放つ銀のナックルが装着される。
甲高い金属音が、美と醜、獣と獣の闘いの幕開けを告げた。



[お題で妄想] その7の2


長い首を持ち上げ、鉄槌の如く振り下ろす妖怪。少女は鋭いステップインを中断し、優雅に身体を開いてかわす。
更に伸ばした首が斜めに振り上げられる。ダッキングに髪をふわりと舞わせ、地を蹴り飛ばし距離を開ける。
妖怪もその腹を引きずるように、短い脚で緩慢に後ずさった。


――へえ、予想通りの抵抗だけど、なかなかやるじゃない・・・
――リーチは長いし、ハンドスピード・・・いや、ヘッドスピードっていうのかな?・・・それは褒めたっていい。
――・・・だけど、アウトボクシングでボクの「脚」に敵うと思っているのかな?
――それに、ボクシングと頭突きだなんて・・・組み合わせが凄惨すぎてさ・・・見てられないと思わない?
――あ、キミを選んだのはボクだったっけ・・・ふふっ、ボクは悪い子だなあ・・・


口笛の音を合図に、幻惑の舞が始まった。妖怪は首を伸ばしたまま、美少女を視界に収める事がやっとのようだった。
常に相手の間合いの外に位置取り、打たせずに打つアウトボクシングスタイル・・・
ボクシングシューズを模した磁力調節靴が、少女の全身の躍動を更に高める。
拳も、脚も使わない。調節はマウスピース型コントローラで行われる。
噛み締める左右の圧力が、靴底がフィールドを捉える強さに連動するのだ。
左右に切り返すたび、長く伸ばしたツインテールが研ぎ澄まされた刃の如く空間を切り裂く異音が、妖怪を怯えさせた。


目が覚めるように硬く鋭い左ジャブのダブルが鼻を弾き、妖怪の視界を一瞬フラッシュさせた。
そして、右ストレートが一閃する。顎を砕かれ、初めて打たれた事に気が付く程の、恐るべきノーモーションだ。
踏み締めた少女の左足が、地に吸い付いている。その唇の奥に隠された機構により、打撃の反動吸収も思いのままだ。


少女の恐ろしさは、その小柄な体躯に似合わぬ鋭く正確なブロウが一撃では終わらない、コンビネーションにある。
追撃の左フックは下へかわされるも、息も付かせぬ右ショートアッパーのダブルが鼻を潰し、続いて顎を弾き飛ばし
既に右ストレートで砕けていた前歯の混じった、血飛沫の霧が立ち込める。
左右フックの四連打が顎顎頬頬と炸裂し、銀の拳と風になびくツインテールが交互に妖怪の顔面を襲った。


一気にノックアウトを狙うかと思えば、血を振り飛ばし繰り出された反撃の横振りをかわし
戻る頬を打つ左ジャブの反動でフットワークへ戻る少女。ステップアウトの余りの疾さに
返り血を吸ったツインテールが鞭のようにしなり、その叩き合わされる衝撃音が妖怪を嘲笑うようだった。
クレバーに洗練された少女の拳闘技術が、妖怪の表情を次第に怒りから怯えへと変えていく。


ハンドクラップにも似たツインテールの奏でるリズムを埋めるように、拳の金属音が加わる。
妖怪の眼には、加速し続ける少女の姿が二人にも三人にも分裂し、ついには何人かもわからなくなった。
ナックルが残す青白い火花を追う度に、恐怖が膨れ上がる。


射程外から一瞬に襲う、左ジャブのトリプル、鼻鼻鼻。激痛と共に妖怪の視界から少女が消える。
――ふふ・・・こういう趣向は、どう?
溢れる涙に視界が霞んだ直後、その首の下に入り込んでいた少女。
左奥歯を噛み締め、遠心力を活かした渾身の右フックが、血に塗れた鼻梁へ正面から激突する。
更に追い打ちを掛ける、鼻腔を抉り取るような左ショートアッパー。そして冷酷なまでに正確な、鼻骨への右ストレート。
反動で距離を取りワンツーの3セット、鼻鼻、鼻鼻、鼻鼻。夥しい返り血を黒い翼で防ぐかの如くツインテールを舞わせ
左から右から正面から、幼き悪魔の拳が妖怪の顔面と恐怖を腫れ上がらせる。
人間なら激痛に両手で顔面を押さえ、倒れ伏してのた打ち回れるが、この妖怪には到底叶わなかった。
ギブアップも、タオルも、レフェリーストップも、ガードすらもない。地獄の責め苦が続く。


連打が一瞬止む。妖怪は所々欠けた歯を食い縛り、頭を持ち上げ全力で振り下ろした。
――ファイトだけじゃ、ボクには勝てないよ。
必殺の右アッパーカットが、芸術的なタイミングのカウンターで顎を砕き、天へ聳え立った。
再び、無数の欠片に砕けた歯が、鮮血の雨に混じって降り注いだ。
妖怪は土煙と共にその首を落とし、動かなくなった。


「ん・・・これって、スタンディングダウンでいいのかな?」
妖怪の眼の前に、ホログラムの青白い数字が映し出される。
それが意味する所を妖怪は理解していたのか、首を起こそうと必死に痙攣している。
返り血滴る少女の顔が、残酷な優越の笑みに、淫らに歪んだ。
銀の拳を突き付け、カウントを自ら数え上げる。
「・・・エーイト、ナイーン、・・・テーン」



[お題で妄想] その7の3


作戦終了から30分・・・少女は、本来防具として使う予定だったヘッドギアを、今になって装着し始めた。
相変わらず、百年前のセンスだ。猫を模したのだろうか、その頂点には小さな耳型の翻訳機が付いている。
異種の妖怪どうしが会話らしき行動を交わす事は、出没初期から観察されていた。
妖怪の言語の構造は研究により人語、それも何故か日本語に近い事が判明している。
猫耳は少女の懐古趣味に過ぎない。体表面にフォースフィールドを貼る事で、双方向に対話が可能な仕組みだ。


倒れた巨体へ飛び乗り、宙に脚を遊ばせる少女。返り血に濡れそぼった長髪が、妖怪の腹へ妖しく絡み付く。
「るぅむあァ、んいィ・・・」
「そんなにボクのパンチが効いちゃった? ふふ・・・ろれつが回ってないみたいだけど」
残忍な笑みと共に、脇腹を踵で抉り、更なる自虐の言葉を促す。
「ぐぅ、や、ひぃ・・・」
少女は、翻訳機のレンジを調節し始めた。
「聞こえない。こんな小娘のボクシングにさあ、滅多打ちにKOされて・・・男としてどう思うの?」
詰問を繰り返すごとに少女の嗜虐心は満たされ、妖怪は朱に染まった赤い顔を更に紅潮させ己の弱さを呪った。


陰惨極まる問答を堪能すると、少女は舞い降り、自らが徹底的に潰滅し尽くしたその醜い顔面をシューズで踏み躙った。
腹の肉から僅かに出る、短い脚。身体の構造上、妖怪は一度倒されたら、二度と自力では起き上がれないようだった。
猫耳が垂直に立ち上がる。少女は、翻訳機のレンジを一気に"MAX"へ設定した。
「俺は、これから死ぬんだな・・・死んだ奴が死んだら、いったいどこへ・・・」
「ふふ・・・誰が殺すって言った?」


妖怪は驚愕した。そして、思わず・・・救いを求める眼で、少女を見上げてしまった。


・・・


「お注射の時間ですよぉ〜」
ナース服に身を包む少女。小さな帽子の脇には、やはり猫の耳を模した翻訳機が装着されている。
そしてその両拳には・・・医療への冒涜を形にしたような、銀の凶器が光っていた。
「ふふ、あざといったらありゃしない・・・でもさ、いかにも時代錯誤な感じで・・・カワイイと思わない?」


国立妖怪病院。
病院とは言うが、治療の為の施設ではない。妖体実験の為に用意された研究機関だ。


いつからだろうか。妖怪は巨大なベッドに仰向けに転がされ、長い胴体の二箇所を鋼のワイヤーで固定されていた。
少女はベッドに腰掛け、しなやかに上体を捻りながら、唇を開いた。


「ボクはね、男の子をコロしちゃった事があるんだ・・・
小六の頃・・・それはリング上の不幸な事故として扱われた。表沙汰にはならず、罪を償う場所にも入れず
ボクは自責の念で胸が張り裂けそうで、命を絶つ事すら考えた・・・でも、拳の疼きは止まってくれなかった。
中学に入って9ヶ月で9回も転校するたび、いやらしい目でボクを見るおじさんたちを、片っ端から半殺しにした・・・
もしもコロしちゃったら、今度こそ塀の中だしね・・・ふふ、飽きちゃったんだよ。人間には。
そこでさ・・・やってみたら案外カンタンなもんだね。そう、門を開いたのはボクさ・・・今年の初詣の帰りにね。
殴りがいのあるキミのような妖怪を待っていたんだ。好きだよ・・・ボクの王子様」


信じられぬ告白に、それを「聞かされてしまった」己を待つ運命を悟り、妖怪は泣き喚いた。
美少女のにこやかな沈黙は、余りにも残酷に妖怪の心を斬り刻んだ。必死に運命から逃れようとする妖怪。
「そ、そうだ!他の妖怪達を始末しに行かなくてもいいのか!それが仕事なんだろう!」
「門はさっき閉じてきちゃったよ。妖怪による死者は結局一人も出なかった。キミはこの国を救った勇者さ。
王子様で勇者・・・完璧だね。そして今・・・勇者はボクだけの、最高のサンドバッグ・・・何か言いたい事は?」


「・・・俺達に『妖怪ロリなめ』という不名誉な名前を付けたのは、お前ら人間だ。
俺達は、天界の木の樹液を主食とする。天界は、人間に殺された人間が行くところだ。
だから、争いという概念自体が存在しない。争いを起こしたものは『誰も知らない所』へ送られるからだ。
俺たちは他の種族との対立を避けるため、より高い枝を舐める事で、このように首が長くなった。
お前ら人間の都合で勝手に呼び出され、樹液と同じ成分を持つものが・・・」


妖怪は、自らの「男」を呪った。美少女の白い太腿へ、艶やかな髪へ、熱い視線が彷徨ってしまう。
「偶然、お前のような・・・美しい少女の汗だった・・・それだけなのだ・・・」


――どうして、こうなってしまった・・・
妖怪は、美少女から聞かされた屈辱のテンカウントの「後」へと、想いを巡らせた。



[お題で妄想] その7の4


「・・・テーン、イレブーン・・・ふふ・・・言ってなかったけどさ、ボクのカウントは100までだからね」
ホログラムウィンドウが横に伸長し、表示が"10"から"11/100"へと切り替わった。
20、30とカウントが進むごとに、絶望に満ちていた妖怪の表情が憤怒へと塗り替えられて行く。
妖怪は、鬱屈した激情を暴発させるかの如く顎で大地を叩き、カウント88で首を持ち上げた。


絶望的なダメージから立ち上がった選手は追い詰められ、為す術なく再び打ち据えられる・・・それがリングの掟だ。
だが、少女の風を切るコンビネーションは、全て妖怪の鼻先で止められていた。華麗なる幻影の舞い。
その目的は・・・挑発だ。連打の前に凍り付いた妖怪。その顔色が、怒りから怯えへ、再び怒りへと移り変わる。


興奮し、首を振り回す・・・言わばハンマーパンチやロングフック攻撃に出るのかと思えば、首を縮め始める妖怪。
――へえ、パキパキ言ってる。縮めるのは苦しそうだ・・・一撃必殺ストレートのお披露目か、そうこなくっちゃね・・・
少女は脚を止め、対角線上、じりじりと間合いを詰めてくる妖怪に正対しつつ、その時を待った。


哀れな妖怪は知らなかった。少女の得意技が、徹底的にフットワークと左ジャブで翻弄し
怒り狂った相手の拳に自らの拳を合わせ撃ち砕く、「拳へのカウンターパンチ」だという事を。
通常の試合の中では、いかに少女の反応速度と言えど、相手の繰り出した拳に拳を合わせる事などできない。
前後の出入りと横への幻惑を複雑に織り交ぜる、ツインテール舞う華麗なステップと鋭いジャブにより
何ラウンドもリングと相手の心を支配し続ける。そして恥辱に涙を流し大振りになった相手にこそ
伸び切る直前の最高に破壊力が乗った拳と、肘と腕と肩を根こそぎ砕き尽くす、悪魔の一撃が成り立つのだ。


妖怪もまた、少女という美しい魔性に喰らい尽くされてしまった。
渾身のバネで繰り出し、伸び切る直前のその顔面を、ステップアウトの反動を活かした右ストレートが猛爆した。
冷徹なまでに磨き抜かれたその一撃は、自らの拳を砕かぬよう、急激な捻りを加えたコークスクリューブローだ。
その瞬間、振り絞った最期の死力が数倍に増幅されて跳ね返される余りの狂威に鼻骨が螺旋状に陥没粉砕するどころか
極限まで縮め返された首が少女の十数倍はあろうかという体重を後退りさせ、妖怪をコーナーへと激突させた。
全方位へ高圧で飛び散った鮮血がレーザーに降り掛かって蒸発し、絶望の檻は禍々しい死臭に閉ざされた。


そして、全ての関節が砕けた右腕を左腕で押さえ、恐怖に泣き叫ぶ相手の
がら空きの顔面をねっとりと眺め回し・・・ダウンも許さず、葬り去る。それが少女の拳闘の美学だった。


もはや、妖怪には己の頭部を支える首の筋力も、精神力も残されてはいなかった。
フックで頬を弾かれれば、その首がレーザーの反発力に跳ね返され、またもフックが激突し頬骨が軋む。
アッパーカットで己の背と接吻し、反動で戻った顎を、更に渾身のアッパーカットが撥ね上げ続ける。
「おっと・・・う〜ん、やっぱり取れたては新鮮だ、ねっ!」
地獄絵図だった。千切り飛ばされた舌の先端を半開きの口へ放り込み、顎への右ストレートパンチ。
慈悲の欠片もない、残虐無情の一撃だった。血と骨が肉と混じり合い弾け飛ぶ。


ここからが、少女がボクサーとして年齢性別キャリアの壁を超え、対戦を忌避された理由だった。
絶望に青ざめたその顔面を、あくまで華麗なるジャブで徹底的に弄び、精神すらも破壊し尽くすのだ。


まず少女は脚を止め、その弾丸を「拡散」させる。
上下左右の空間を斬り裂き肉を削ぐ無数の散弾の恐怖が、妖怪の顔面を空間の一軸へと固定する。
上にも下にも左にも右にも、逃げられない。後ろに縮めれば今度こそ追い詰められ、終わりだ。
少女は拳の支配領域を縮めていき、そして最後は・・・
「ふふっ・・・ロックオン・・・覚悟はいい?」
銀の左拳を突き付け、宣言する。これから、魂ごと顔面を滅多打ちに打ち砕くと。


無数の破片に砕けたその鼻梁を中心に、狂気の舞いを踊りながら弾丸を「収束」させていく少女。
少女の磁力調節靴の扱いは、まさに神技だった。フィールドを蹴る瞬間、"MAX"に噛み締め爆発的な推進力を得
次の瞬間"MIN"に戻し、風に舞い流麗な残像を残す。その口内の操作を超高速で繰り返す事により
もはや腫れ上がった妖怪の眼に、加速し続ける少女は白黒赤の光の帯としてしか認識出来なかった。
銀色の激痛が弾けるたび、瞬間に焼き付けられた美少女の顔は、歪んだ薄ら笑みを浮かべているようにさえ見えた。



[お題で妄想] その7の5


音の暴力が妖怪の聴覚へ吹き荒れる。破裂音と次の破裂音が重なった不協和音に、更に破砕音が加えられ輻輳する。
防御も叶わぬ顔面を襲う、視認すら出来ぬ魔の弾丸の集中砲火。激痛と窒息が妖怪の自尊心を粉々にすり潰す。
加速と共に亢進する少女の左拳の威力は、ジャブの領域を逸脱して妖怪の瞼を斬り刻み皮膚を腫れ上がらせ
脳を頭蓋へ激しく叩き付け、残った歯すらも一本残らず砕き尽くした。
純白のセーラー服は、一片の白も残さず返り血の紅に染め上げられた。ただただ美しい、絶望のみがあった。


まず、相手を巧みにコーナーへと追い詰め、精神力を大胆に抉り取る。
次に、残った部分を丹念にやすりにかけるかの如く、削り落としていく。
最後に、絶望に打ちひしがれた魂を、肉体という土台ごと粉微塵に撃ち砕く。
少女の思い描く「理想」は、人間の耐久力では到底実現出来なかった。


「やっと巡り逢えた『王子様』・・・誰にも、渡さない・・・!」
少女は妖怪の限界を悟り、フィニッシュに入っていた。
右ストレートの連打、真っ直ぐ加わった衝撃が首を一節一節圧し潰し、ついに頭部は胴体へと深くめり込んだ。
無残に潰れきり、赤黒い肉塊と化した妖怪の鼻。それを鉋で削ぎ取るような、渾身の左ショートアッパー。
鼻に次いで、ダブルで顎を砕く会心のコンビネーションは、少女の嗜虐心を初めて満足させた。
「この手応えだ・・・キミが妖怪で、本当に良かった。大好きだよ、かまぼこクン・・・」


少女は、満たされた。ここからは、「作戦」を終わらせる為だけの、言わば消化試合のようなものだった。
両前脚が浮いた所に右スマッシュ、左の前後脚が僅かに浮けば左スマッシュ・・・
体重で少女の10倍以上はある巨体も、重ねられる拳打の波に左右に揺られ、その振れ幅は次第に大きくなって行く。
そして13発目の右で、巨体は斜めに静止し・・・血の泥飛沫を上げて横倒しになった。


・・・


国立妖怪病院。苛烈なる記憶を思い返しつつ、妖怪は長い独白を終えた。
「・・・言いたい事はそれだけ?話が長いわりに、つまらない」


少女の端正な顔立ちから表情という表情が消え失せ、爛々と輝いていた眼から、光が消えた。
耳を劈く金属音と共に、青白い火花が降り掛かる。病室を支配する、死の沈黙。
「要するにさ・・・『なめさせて』って事だよね」
妖怪は、一言も反論できなかった。


「なぁんだ・・・じゃあさ、好きなだけなめさせてあげる。ただし・・・」
美少女の眼が細められ、口許に気まぐれな猫の笑みが戻る。
「人間界の掟には従ってもらうよ。レートは1なめ5発・・・悪くないとは思わない? キミに拒否権はないんだけどね」


・・・


「ほ〜ら、食事の時間だよ。今日は特別サービスデーだから2なめ5発・・・お買い得だとは思わない?」
ベッドに体育座りし、妖怪の脇腹へ長い右脚を投げ掛ける美少女。衣擦れの音と共にスカートが僅かに下がり
淡桃色のオーバーニーソックスとの対比が眩しい白い太腿と、残酷な笑みがむき出しになる。


「あれぇ〜?なめないの?ふふ・・・じゃあ、おまけも付けちゃおっかな」
濡れ羽色の魔性、流麗なツインテールが、むき出しの肉質へ艶かしくとろけるように絡み付いた。
一度舌を伸ばしたが最期だった。妖怪は夢中になって美少女の肌を、髪を、なめ回し続けた。


対妖怪特殊部隊RIOSは解散が決まっていた。新たな妖怪の出現が、ここ3ヶ月の間確認されていないからだ。
各地に出没し、何処へ送られるかも知れぬ二度目の死の恐怖に怯えていた妖怪達は
ある者は山に身を隠し、またある者は絶望に自ら命を絶ち、人間の魔の所業を呪った。


「今日はお楽しみだったね・・・サービスデーなのに昨日より多いなんてさ。じゃあ・・・お代を頂くとするか、なっ!」
壁のスイッチが押されると、妖怪の後足側を支点にベッドが180度回転し、ワイヤーロックが外れた。
同時に病室の照明が落ち、天井から鏡を無数に貼りつけた球体が降りてくる。
目眩がする程にアナクロなレゲエサウンドが流れ、身も凍るナックルの金属音が平和そのもののリズムを刻む。


10分後・・・天井にまで飛び散った鮮血に、美少女を彩る無数の反射光は妖しい紅に染まっていた。
「アハハッ、泣いてる・・・ほら、いつもみたいに殺して欲しいって言ってみなよ!」
返り血滴る猫耳が、ふにゃりと垂れ下がる。翻訳機のレンジを、わざと緩めたのだ。
「ぶぉっろ・・・しれ・・・ほじい・・・」
「『もっとして欲しい』?・・・王子様は変態だなあ!でも・・・そこが大好きだよ」
既に原型を留めぬ程に潰滅し尽くされた鼻へ、少女の柔らかな唇が重ねられた。
妖怪ロリなめと美少女、その幸せな関係は終わらない。